二
それは、櫻華が初めて魔と戦ってから七日――
時の流れは止まることなく、変わりゆく季節に桜は散り始めていた。
「歴史的には、破魔の――」
――ガタッ
静かな教室に、椅子の足が擦れる音が響く。
意外に大きく響いたその唐突な音に、教室にいた全員が一斉に振り返った。
「――――」
周りの視線に気を留めることなく――とはいえ、それはいつものことではあったが――その視線の中心人物は立ったまま窓の外を見つめていた。
いつも通りのいつもの日常。櫻華のことも落ち着き、徐々に全てが平穏に戻りつつあった日のことだった。歴史の授業の最中、それは突然に訪れた……いや、『二人』にとっては突然ではなかっただろうが。
「どうした、櫻華?」
笑いを含んで、隣で立ち上がっている少女――櫻華に神楽は問いかけた。まるで、答えをあらかじめ知っているかのように。
無言で一瞬だけ神楽に視線を向ける。が、すぐに櫻華は外へと視線を戻した。教室の中は戸惑いを含んだ不思議な沈黙が支配している。
「あ、あの、妙月さん……」
沈黙の中、空気に耐え切れなくなったのか歴史担当の教師が声をあげた瞬間――
シュルと、櫻華は制服のスカーフを外した。
「た、妙月さんっ!?」
声を上げて、だが、近づいては止めようとはしない教師は無視し、櫻華は服を脱ぎスカートを外し、真後ろにある自分の棚から包みを――術衣の入った包みを手に取った。
包みを開き、真白の長襦袢に腕を通す。微かな布の擦れる音を響かせ、櫻華は黙ったまま薄紅の着物を身に付け小豆の袴を履き、素早く術衣を――桜の装束を纏っていく。
そして、沈黙の中、シュと帯を結び、櫻華は平打ちの組紐で小太刀を腰の後ろへ固定した。
「――――」
一瞬だけ外を見つめ、すぐに振り返るとそのまま教室の扉へと向かう。
「妙月さんっ!!」
再び声をかけられても逡巡することすらなく、櫻華は教室を出て行った。
あまりの突然のことに誰もが動くことすらできず、その意味も理解することができず教室は静寂に包まれていた。
「さて――桜舞を見にいこうか」
そんな中、櫻華の背中を見送った後、愉悦を含んだ呟きとともに神楽は只一人立ち上がった。
――その刹那だった、
ズンッ――!!
深海のような冷たい重さと、心臓を凍らせる死の空気が充満した。
「――――っ!?」
全員が息を飲む中、窓の外に黒い影が立ち昇る。
それを背に受けながら、神楽も逡巡することはなく教室を出て行った。




