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櫻華の桜  作者: shio
第三章 散華
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(こやつと居れば、退屈はせぬな)


 そう思うと同時に、


(その才、その力、その器。果たして、どれほどのものか)


 再度、そう思わずにはいられない。おそらくは、今回の事が初めての実践だったはずだ。櫻華の性格を考える限り、自ら秘密で魔との実践をする性質ではないだろう。つまりは、初めての戦いであれだけの術の冴えと力を出したことになる。


「しかし、そうか。散華を自得したか」


 笑いを治め一人頷き、神楽は櫻華をもう一度見つめた。

 考えてみれば――櫻華と接してみれば、成程と思わずにはいられない。これほど、散華が似合う娘もいないだろう。散華を使うまでは強い破魔術者だろうと考えていたが、今では破魔を使うほうがおかしいように感じる。


「ふむ……」


 しばし迷い……そして、神楽は問いかけた。


「何故、散華を選んだ?」


 成程、確かに櫻華には散華が似合う。だが、自ら散華が似合うと思って選ぶ者もいないだろう。選ぶには選ぶ理由があるはずだった。

 散華の思想か、志か、生き様か。それとも――


「……逝かせるのなら、綺麗に逝かせてやりたいって思った」


 櫻華の視線、その瞳――黒真珠のような深く深く、そして、どこまでも澄んだその瞳に映っているものが、その視線の先が、垣間見え、


「――――」


 小さく呟いた櫻華の言葉に、今度は神楽が黙った。いや、言葉を亡くならさせられた。

 笑みをなくし櫻華を見つめ――そして、一言いう。重く、深く。


「それは、自分も含めて?」


 ――綺麗に逝きたいのは。


「うん」


 その時、初めて櫻華は微笑んだ。神楽に見せる初めての微笑み。

 一瞬、その笑顔に魅かれそうになって、神楽は苦笑した。惚れ惚れする笑顔というのはこういうのをいうのだろう。それに対して、言葉では言いようのない感情が心に出てくる。尊敬、というと明らかに違う。だが、どうしても言葉にしないといけないのなら、やはり尊敬という言葉が一番近いように思えた。


(生き様ではなく、死に様、か)


 もう一度苦笑する。同じ考えでいるはずだが、櫻華のほうがもう一段高い場所にいるような、そう感じてしまう。


「そうか、ならば見せて貰おう。お前自身の華の散り様を――散華を」


 互いに合う視線。神楽は笑みを浮かべ、櫻華は平素と変わらず。

 言葉の意味を考えれば、笑顔で話せる内容ではなかった。言葉そのままの意味で、お前の死ぬところを見せて貰う、と言っているのだ。それを神楽は自然に、なんの気負いもなく簡単に口にした。そこには殺気も愉悦もない。気心の知れた友を遊びに誘うような、それほどの自然さで神楽は言った。余程の心底でなければ、こうは言えない――そして、応じる櫻華もそれを平素と変わりなく受けた。


「その場は、舞台は与えよう」


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