四
(こやつと居れば、退屈はせぬな)
そう思うと同時に、
(その才、その力、その器。果たして、どれほどのものか)
再度、そう思わずにはいられない。おそらくは、今回の事が初めての実践だったはずだ。櫻華の性格を考える限り、自ら秘密で魔との実践をする性質ではないだろう。つまりは、初めての戦いであれだけの術の冴えと力を出したことになる。
「しかし、そうか。散華を自得したか」
笑いを治め一人頷き、神楽は櫻華をもう一度見つめた。
考えてみれば――櫻華と接してみれば、成程と思わずにはいられない。これほど、散華が似合う娘もいないだろう。散華を使うまでは強い破魔術者だろうと考えていたが、今では破魔を使うほうがおかしいように感じる。
「ふむ……」
しばし迷い……そして、神楽は問いかけた。
「何故、散華を選んだ?」
成程、確かに櫻華には散華が似合う。だが、自ら散華が似合うと思って選ぶ者もいないだろう。選ぶには選ぶ理由があるはずだった。
散華の思想か、志か、生き様か。それとも――
「……逝かせるのなら、綺麗に逝かせてやりたいって思った」
櫻華の視線、その瞳――黒真珠のような深く深く、そして、どこまでも澄んだその瞳に映っているものが、その視線の先が、垣間見え、
「――――」
小さく呟いた櫻華の言葉に、今度は神楽が黙った。いや、言葉を亡くならさせられた。
笑みをなくし櫻華を見つめ――そして、一言いう。重く、深く。
「それは、自分も含めて?」
――綺麗に逝きたいのは。
「うん」
その時、初めて櫻華は微笑んだ。神楽に見せる初めての微笑み。
一瞬、その笑顔に魅かれそうになって、神楽は苦笑した。惚れ惚れする笑顔というのはこういうのをいうのだろう。それに対して、言葉では言いようのない感情が心に出てくる。尊敬、というと明らかに違う。だが、どうしても言葉にしないといけないのなら、やはり尊敬という言葉が一番近いように思えた。
(生き様ではなく、死に様、か)
もう一度苦笑する。同じ考えでいるはずだが、櫻華のほうがもう一段高い場所にいるような、そう感じてしまう。
「そうか、ならば見せて貰おう。お前自身の華の散り様を――散華を」
互いに合う視線。神楽は笑みを浮かべ、櫻華は平素と変わらず。
言葉の意味を考えれば、笑顔で話せる内容ではなかった。言葉そのままの意味で、お前の死ぬところを見せて貰う、と言っているのだ。それを神楽は自然に、なんの気負いもなく簡単に口にした。そこには殺気も愉悦もない。気心の知れた友を遊びに誘うような、それほどの自然さで神楽は言った。余程の心底でなければ、こうは言えない――そして、応じる櫻華もそれを平素と変わりなく受けた。
「その場は、舞台は与えよう」




