二
不安と恐怖と緊張が漂っている教室。いつもよりも減った学生――魔の戦いから休む学生が増えたのだ。そして、問題が問題なだけに、学院側も強制的に登校させるわけにもいかなかった。
国から学院へと防人が派遣されたという噂もある。それに付属して、学院側の面目を保つ為、防人の派遣を断ったという噂も。学院は緊張感と重い静けさ、そして、表に出ることはない僅かな混乱が満ちていた。
日常が無くなった、いつもとは違ってしまった学院。
「…………」
しかし、例え周りが変わっていても、櫻華にとってはいつも通りと変わりはなかった。自分が自分であるならば、自分が変わらなければ、いつもの日常となる。
いつもと変わらぬ、いつも通りの日常。いつもの通り一人本を読む。
櫻華の周りには静けさが漂っていた。ただし、以前とは違った不自然な静けさが。
気にはしていない。いや、感じている時点で、考えている時点で気になってしまっているのか……周りの感情は分かっている。複雑な気持ちはあるものの、その根は一つだった。
つまりは――
「ますます孤独になったな」
明るい声が聞こえ、櫻華は視線だけを向けた。そこには何が楽しいのか神楽が笑みを浮かべて立っていた。
「手に余っているのだろう。または、恐れているか」
恐れ――神楽にいわれるまでもなく櫻華にもそれは分かっていた。つまりは恐れられているのだ、まるで異形を見るように。しかし、それも仕方のないことだった。おそらくは教師たちにさえ戦うことができなかった鎧武者を、櫻華はいとも簡単に倒してしまったのだ。実力、能力ともに教師以上ということが分かってしまった。恐れられて当然だろう。
「助けられた負い目もある。が、何も言えぬだろうな。散華を見せてしまったからには」
破魔であれば素直に認める事も礼を言う事もできただろう。だが、教師たちが教えていない、そして、使うことのできない散華を櫻華は使ってしまった。途絶えたとはいえ、その本質と流れにおいて散華は破魔よりも高位とされている。破魔が正統といわれていても、散華を出されてしまえば破魔は下に成らざるを得ない。
否応無く認めらざるを得ない散華が術。しかし、破魔が中心の今の世では認めるわけにはいかなかった。認めてしまえば、自分たちを下に置いてしまう。それが何を意味するかを、教師たちはよく分かっていた。下手をすれば防人の社会を崩しかねない――その複雑な心境が櫻華を隠す理由となった。いづれ知れることになるだろうが、それを学院から正式に話すわけにはいかない。
「心中、複雑だろう。くだらぬことだが」
神楽は笑った。心底愉快そうに。




