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櫻華の桜  作者: shio
第二章 桜舞う
27/138

十一


 ――ザッ


 右腕を失った鎧武者が一歩足を後ろに退く。まるで目の前の小さな桜の少女を恐れるように。残り二体の鎧武者も動きを止めていた。誰が敵となるのか――脅威となるのか気付いたのか、芹奈に向かっていた一体も、学院に向かっていた一体も櫻華へと顔を向けてきた。

 あまりの突然の出来事に学院が静寂に包まれていた。聞こえていた悲鳴も今は止まっている。

 櫻華はゆっくりと歩いていく。櫻華が一歩進むごとに鎧武者の足も一歩退いた。櫻華はそのまま歩いていき、そして、巴から距離が離れたところで立ち止まった。

 鎧武者も立ち止まる。櫻華の元へと集まった三体の鎧武者が。


「…………」


 巨大な鎧武者に囲まれても、櫻華に惑いはなかった。静かに、ただ静かに立っている。誰もがその光景が理解できず、動くこともできないまま鎧武者と櫻華を見つめていた。


 巴は力落ちたまま、その場に膝をついた。何が起こっているのか分からない。


「――何故、力がないと思った?」


 静かに、神楽が口を開いた。


「何故、何もないと思った?」


 嘲りを含んだまま、言葉を続ける。それは巴に言っているようでいて巴には言ってはいなかった。誰にいうわけでもなく、まるで学院全体に向かって嘲るように神楽は笑った。


「何故、自分よりも下だと思った?」


 そこで、初めて神楽は巴を見た。


「力を測ることもできない器で、自分は人より優れていると思っていたか」


 言葉がでない。否定もできない。いや、話すらできる状態ではなかった。


「痴児め」


 今だ呆けている巴の全てを見透かしたように神楽は吐き捨て、桜が舞い始める中、櫻華を見つめた。


 サァ――――


 ――いつからか桜が舞っていた。

 校舎の近くにある桜から風で流されているわけではない。だが、どこからか桜の花弁が舞い踊っていた。

 櫻華を囲む鎧武者三体。その鎧武者は桜が舞っていることを気づいているのだろうか。


 オオオォオオォォオオ――――


 左右の武者が太刀を振り上げ、右腕を失った中央の武者が左腕を振り上げる。


「…………」


 櫻華は無言のままで居た。

 平素と変わりなく静謐に穏やかに、わずかに吹く風に髪と道着をたゆたせたままただ佇んでいる。


 オオオオオオオォオオォオォオオオ――――!


 そして、魔の唸りが響き、太刀と拳を振り下ろした。


 ――その時、千載の桜が咲き誇った。


 サァァァァァ――――


 三体の鎧武者が桜の花弁となり、空へと舞っていく。

 その中心で、櫻華は微かに俯いたまま静かに佇んでいた。

 構えを取ることもなく、ただ風に吹かれるまま桜の花弁に包まれ黒髪をなびかせている。

 誰一人声を上げることもなく、皆は櫻華を見つめていた。

 その中で、唯一人神楽だけが笑みを浮かべ一言呟いた。


「散華か」


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