九
――――ィン――――
霜降りる音あらば、そう啼いたかどうか。もしくは、人がそう感じ音を思っただけかもしれない。
刹那、深々と真夜中の積雪のような静かさと冷たさが場に満ち溢れた。
「――っ!?」
櫻華と神楽以外全員がその心臓を締め付けるような冷たい感触に息を呑む。そして、冷たさが増すにつれ、先ほど感じた感覚が間違いだということに気付いた。雪のような綺麗で純粋な結晶ではない――この冷たさと静かさは死の匂いだ。
「ぇ……」
それは誰の声だったか、そして、誰が最初に気付いたか――
オオオオォォォオオオ――――
音もなく、三体の鎧武者がその場に立っていた。
大きい、身の丈一丈はあるだろう。巨大な太刀を持った漆黒の鎧武者。
面具から除く顔には影しかない。口も眼も肌もない。
オオオォォォオオオオォォオ――――
風の音か、それとも鎧武者の唸り声か、または、屍の匂いを満たすどこからか来る死者の呼び声か。耳鳴りのする深く低い響きが耳朶に木魂し、頭が麻痺していった。そのせいか、学生たちはすぐには何の反応も示すことができなかった。何より見たことがないのだ、こんなにはっきりした鎧武者の姿を。
だが、それが何なのかは分かる。これは、この鎧武者は――
「……魔」
誰かが小さく呟いた。静寂の中、その呟きだけがやけに大きく響く。
「――――――!!!!」
瞬間、声にならない悲鳴を上げて、一斉に学生たちは逃げ出した。
絶叫と混乱の中、立ち止まっているのは巴と教師である芹奈、そして、神楽と櫻華だけだった。だが、立ち止まっているものの芹奈と巴は咄嗟の判断ができず混乱していた。
逃げる学生と鎧武者を見ながら、どうすればいいかが分からない。
ザッ――
しかし、混乱している間にも鎧武者はこちらへと近づいてきていた。その足音を聞き、巴はやっと声を絞り上げた。
「早く逃げてっ!!」
逃げ遅れている学生に向かって叫び、自分は構えをとる。巴の声で我に返ったのか、頼りないながら芹奈も構えをとっていた。それを横目で確認し、巴は頭を切り替え考えていた。対しただけで押しつぶされそうな恐怖と絶望が圧し掛かってくる。これだけはっきりした人の形をとる魔は資料だけでしか見たことがない。そして、それは明確なことを教えていた。
つまりは恐ろしく強い魔だということ――しかも、巴はこれが初めての実践だった。頭が冷たくなるにつれ、戦えるかどうかが分からなくなってくる。力が敵うかどうか、倒せるかどうか。
(戦えなかったら……敵わなかったら……)
――死ぬ。




