七
(誘いこまれぬな)
隙を見せても打ち込んではこなかった。さすがに、この程度では読まれて誘いには乗らない。
(もう少し興じていたいが――)
神楽は踏み込み、右の掌底を打つ。捌く櫻華に間合いを詰め、流れを外し今までとは違う動きで左の裏拳を顎に突き上げた。顔を逸らし、紙一重でその裏拳をもかわすと、櫻華は空いた神楽の脇腹に手を添え打ち抜こうとした。だが、神楽は膝を上げることで手を防ぎ、そのまま体重をかけ櫻華の襟を掴み、足の甲を潰そうと力で押し踏み込む。
櫻華は腕を回し神楽の手を振りほどき、同時に身体を退く。それを逃さず、神楽は再び襟を掴もうと手を伸ばし――捌こうとする櫻華の腕に触れさせることなく手を退くと、上段蹴りを放った。空振りとなった腕の後に、神楽の蹴りが櫻華の顔を狙う。
しかし、櫻華に焦りはなかった。踏み込み間合いを詰めることで肩で蹴りを受け、逆に神楽の胸へと掌底を打ち込む。
上段蹴りを防がれてからの避けられようのない打ち込み――が、神楽は構わず蹴りを振りぬくことで掌底の軌道を外し、力任せに櫻華の身体を押しのけた。そのまま足一本で返しの踵蹴りを放ち、櫻華の顔を狙う。
目の前に来る踵を櫻華は弾き、弾いた反動で息を付く間もなく放たれる神楽の回し蹴りに腕を合わせ、手の甲で力を削ぐようにやわらかくそれを受けた。力を削ぎ受けきることで一拍の間ができ、こちらの体勢も整える。
一連の打ち合いが終わった一呼吸にも満たないそんな一瞬の間――蹴りを戻しつつ合った、その刹那の視線に神楽は再度笑った。
(面白い――だが、残念だがそろそろか)
合ったこちらの視線に何を櫻華が感じたのかは分からない。だが、櫻華が理解していることは疑いようもなかった。
ザッと神楽は踏み込み一瞬で間を詰めると、再び拳を放つ。対する櫻華は無言。その空気も一定のまま、神楽を向かい受ける。迫る拳を甲で弾き、再び続く数合の打ち込みを――とは今度はならなかった。
神楽は弾かれた拳を意に返さずさらに間合いを詰めると櫻華の顔へと向かい右肘を放ち、取り決めていた如く櫻華が肘を腕で受けたと同時に神楽はそのまま動きを止めた。




