六
(水か)
水は絶えず流れ続ける。
それは、やがて大海へと至り、誰も量ることのできない水の深きへ達する。
誰が分かることができよう、その深きを。誰が知ることができよう、その底を。
その心底を。その奥を。
(成程)
戦いの最中、瞬きの刹那でその奥深くを垣間見え、神楽は内で笑う。たった数度、たった数合。たったそれだけの打ち合い。それなのに、これだけのものを感じさせる。得ることができる。
この娘は、対し知るほどに面白くなる。これほどの愉悦を感じるのは久しい。
(であれば、わしもそれなりの礼を尽くさねばならぬな)
櫻華の準備がてら少し遊んでやろうと思っていたが、その必要もなく整っているのならこちらが遊ぶという心構えでは失礼だろう。
いや、遊びは遊びだが、ただの遊びと『興』は違う。目の前の娘は退屈しのぎで相手していい人間ではなかった。なにより、櫻を愛でるのには相応の礼をしなくてはならぬ――
(僅かながらの前戯であっても、な)
――ザッ!
足を滑らし櫻華と同様に右足を引き左足を前にすると、神楽は一気に踏み込み間合いを詰め、再び拳を打ち込んだ。先ほどよりも一段速く、鋭く櫻華の喉元へと狙い打つ。その拳を櫻華は上半身を軽く逸らせるだけで流し、続く鳩尾への打ち込みを手で捌いていく。
一息も付かせることのない間と速さ。おそらく周りの人間には何をしたかは分からなかっただろう。だが、事前に取り決めていたように櫻華には焦りも惑いもなかった。常と変わりなく全くの自然体で神楽の蹴りを受け、続く打ち込みを捌いていった。
神楽の右の拳を櫻華は掌で流し、踏み込み腰をためてからの喉元への貫手を手の甲で弾く。更に間合いを詰めるように神楽は足を滑らせ、こちらの足首をずらし構えを崩しつつ打ち込む掌底を櫻華は足が流れるまま勢いよく身体を回転させ神楽の背中へと回りこんだ。
背を取った。相手が反応するまで一瞬の間がある。神楽の隙であり、櫻華には明らかな好機だった――が、
ザッ!!
激しい音を立てて顔に迫り来る神楽の回し蹴りに櫻華は慌てることなく身体を退き、寸時も付かせず続く上段蹴りを腕で受け、押し返すと同時に元の自然体の構えへと戻した。




