二
辰の刻――というには大分遅い、朝五つも過ぎた頃。
退屈な話を聞きながら、菜の花色の髪をした少女は窓の外を眺めていた。眺め、そして、少しだけ目を細める。
窓の外には満開の桜が咲き誇っていた。退屈で聞く価値もない説明よりも、桜を眺めるほうがどれだけの利があるだろう。
眩いほどに陽の閃光に煌き、艶やかに舞い踊り狂い散る桜――
嗜好でいえば夜。月夜桜のほうが好みだったが、朝には朝の趣があり、これはこれで悪くなく十分に楽しむことができる。
桜を愛でるのは好きだった。どれほどの時間眺めていても飽きることはない。
――と、そこまで考え、ふと口元が寂しくなり、そして、少女は胸中で笑みを浮かべた。
(酒があれば、尚良いが)
ここは良い桜だ。一瞬でも逃すはおしい。
散桜の刻は早い――花に酒興じるのも限られてくる。刹那ともいえる瞬きを無駄にしたくはない。とはいえ、今は我慢せねばなるまいか。振りとはいえ、学生という立場になるのであれば。
咎められることはないだろうが……振りでも多少は倣わなければ意味がない。ここに来た意味が。ここに居る意味が。
(――何より)
目先の悦に走れば、本当の興を知ることはできぬ――
淡い笑みを残したまま、少女は桜へと目を向ける。風に舞う花弁を、散り踊る桜花を。
真っ直ぐに汚れなく純粋に、ただ咲き、そして、散ることだけを考え生きている桜――果たして、そんな桜が居るかどうか。
元々、ただの興味で来ている為、それほど期待はしていない。が、居てほしいという淡い願望はある。
サァ――
一陣の風吹かれ、桜花咲き逝く。
咲くは狂い踊るためか、散り逝くためか。
少女――識神楽は桜を見つめ続けている。
退屈な話はなおも止まない。




