三
訓練場に着いてからは、いつもの通りに戻っていた。
神楽も櫻華もあれからお互いに話すこともなく……とはいっても、そもそも櫻華は話しているとはいい難いが、ともあれお互いに接することはなかった。だが、巴は何故だかそんな二人が気にかかっていた。いや、二人というよりは……
(識さんは、なんであんなに妙月さんを気にするのだろう?)
いつも一人で居る櫻華を、優しさや気遣いで接するようにしているとは神楽の態度を見てもどうしても思えない。ただ単に隣の席で、他の学生に比べたら珍しい櫻華に興味を持った、とも考えられるが……
(興味)
巴はもう一度心で呟いた。そう、興味だった。どういう理由であれ、神楽が櫻華に興味を持っていることは間違いない。
(妙月さんに何があるの?)
櫻華へと目を向ける。櫻華はいつも通り一人で佇んでいた。いつも眺めている桜へは顔を向けておらず学院の外へと視線を向けてはいるが、他に変わったところはない。
そして、これも同じくいつも通りに、体術担当であり担任でもある芹奈が組み手の相手がいない櫻華へ向かって小走りで近づいていっていた。
人と接することが苦手な真面目な生徒、それだけしかない。他に特別なものなどなにもない。興味を持つものなど何も――
「ねえ、四埜宮さん。私とやってくれない?」
不意に声をかけられ、巴は思索を止めた。準備運動の後、いつの間にか……とはいっても、これもある意味いつも通りなのだが、自分と神楽の周りには学生が集まっていた。
「あ、ごめんなさい、私は……」
急なことでも笑顔を忘れず柔らかく謝り断る巴に、続けて他の学生が話しかけてくる。
「駄目よ、巴は識さんとするんだから」
「え~、私も識さんとしたいなぁ」
「じゃあ、あなたが変わりに識さんとして。私は四埜宮さんとするから」
「あはは、どっちも役不足よ」
笑い合い、はしゃぐ女学生たち。日常の他愛のない会話。そんな普段の光景に安心し、巴は内心で苦笑した。
(気にしすぎなのかも知れない。そもそも、気にするようなことではないのに)
神楽が櫻華と接するというのは悪いことではなかった。人と接することが苦手な櫻華とっては。そう思い直し、巴は神楽へと声をかけた――いつも通りに。
「識さん、私と――」
だが、もうその時には、神楽は櫻華のほうへと歩き始めていた。




