三
「……先日ご覧になられた通り、人は櫻華さんを害してまで捕らえようとしました。おそらくは、捕らえて表に出さないようにするつもりだったのでしょう」
「理解しかねます。散華は人の中心となるべき者。誇りに思いこそすれ、恐れ害するなど……」
「だからこそです。散華に対して何も言えない……急に現れた少女が、人の主になってしまった。受け入れがたかったのでしょう」
善現の言葉に俯き雪は憂いを深くする。誰よりも人の近くにいたからこそ……その考えは、質はよく分かっていた。
「そして、それこそが、散華が無くなった理由なのですから」
「人の熟度の問題だと……」
「……いえ、人が、という問題ではなく、我らもまた成長しなければなりません。それこそが、我らと人の関係が解決する一番の近道だと考えています。だからこそ」
雪はぐっと拳を握り、顔を上げた。嘆くことは幾度となくしてきた。そして、嘆いても何も変わらないことは知っている。だからこそ、
「わたしは櫻華さんと共に在りたいと心より願って……いえ、共に在ろうと、そう誓っています。古の八部衆が人の守護を誓ったように、今一度」
「ですが、人は櫻華殿のことをそのままにしているでしょうか」
「よくは思わないでしょう。しかし、今一番の心配は人と魔が関わることです。この乱れた好機を魔が見逃すとは思えません。八部衆がすでにそうであるように」
「……魔、ですか」
善現の内に少女――神楽が浮かぶ。八部衆でありながら魔と共に居た緊那羅の者。
善現の考えを悟ったように、雪は続けた。
「緊那羅と……夜叉。早急に彼らと会わなければなりません」
「危険です」
「承知しています……ですが、八部衆同士の争いにはしてはなりません。それは一番魔が望むことです」
「ならば、八部衆全てで集まりましょう。応じるかどうかは分かりませんが、応じる者だけでも今は話し合うべきかと思います。すでに、我らが族の竜女が阿修羅族と迦楼羅族に向かっています」
「竜女……そうですか。彼女はこうなることを予見しいち早く動いていたのですね」
早く会っていればと……先程の後悔がまた生まれるが。
「櫻華殿とお会いしたからです。全ての縁が櫻華殿から紡がれています」
「そうですね。成程……我らは再び散華の元に集う。そうです……」
雪は何度も頷き、
「ここから始めましょう。今一度、散華の元から」
自身に誓うように凜と言葉を発した。




