十六
「櫻華っ、お前は我らと同じ『力』を持つ者ぞ!」
少女の力強い声は、天高く響いた。
「見ろっ、お前の後ろにある無数の目はお前を『人』として見てはおらぬ!」
その声、神楽の言葉に、空気が揺れ、淀んだ。
静かに澄んだ櫻華の瞳に、周りの人間は何を見たか、何を感じたか――
――タンッ
『明らかに掴み倒そうとしている動き』に櫻華は一歩後ろへと飛んだ。
「っ! なにを――!!」
別の少女の声――四埜宮巴の叫びが聞こえる。
破魔護法の術者達は櫻華を取り囲み、だけれど、魔でさえ倒せなかった櫻華をどうにかできるわけもなく。風の術まで使い――しかし、当然、それは桜と変えられ。
「止めなさいっ!!」
善現が吠え、阿楼那と二人で飛び出した。気付くべきだったのだ――神楽の言葉ではっきりと分かった。人間達は櫻華を恐れている。まるで、魔と同等に。自分達の地位を奪われぬために。
「――――」
続く術に、櫻華は視線だけで桜と変える。魔の力さえ届かぬ散華。人間の術などで敵うはずもない。だが、焦りも何もなく静かに桜へと変わった術に、人間達は益々恐れを高めた。
だからだろう。
パンッ――――
乾いた軽い音と共に、櫻華が地面へと倒れた時、一瞬何が起こったのか阿楼那と善現は分からなかった。焦げたような匂い、響いた音――それが、銃と言われるものだと悟った時。
「――――ぁあああああああっ!!!」
善現と阿楼那は咆吼し、力を解き放った。
数十はある水の竜は、人間達に襲いかかり――そして、
――キンッ
閃光に包まれたかと思うと、霧散した。
「――良かった。間に合ったようですね」
白き装束の黒髪の少女――それはまるで天女のような。
「どうか怒りを治めてください、竜の者。この場は、わたしが預かります」
八部衆、上首の天――天の少女はにこりと柔らかく微笑んだ。




