十四
残るは一体。
一面に紅桜が舞い散る中、櫻華は漆黒の髪と血に染まった装束を靡かせ――その静かで凜とした瞳に何を宿しているのか。戦いの最中だというのに、燃えるような闘志も、昂揚もなく。だからといって、冷めているわけでもなく。
桜は、刀は何も言わず、ただそこに在るだけ――櫻華もまた同じく。
――――ィィン
そんな櫻華に何かを感じたのか、いやまさか、魔である武者にそんな感情があるかも分からないが。櫻華に感応するように、武者は両手で刀を持ち構えた。櫻華もまた小太刀を納め、左足を前に右足を後ろに退き、僅かに腰を落とす。そして、
タンッ――!
視線を上げた瞬間、花弁と共に櫻華は地を蹴りあげた。
刹那、武者も空気を揺らし櫻華の前に現れる。剣線は左逆袈裟――上段斬りでは捉えられないと考え、さらに、右の逆手で小太刀を抜かれても防げないように左を狙った一閃。
左を前に右を後ろに踏み込んでいる櫻華の背に刀が迫る――が、櫻華はそこで尚一歩踏み込んだ。鋭く息を吸い、ダンッと踏み込んだ左足を軸に身体を回転させ、相手の剣線を外すと共に自身の刀を抜いた。
キン――――
抜き打ちの一閃は武者の胴を薙ぎ、回転のまま足を滑らせ通り抜ける。
――サァァァァ――
左逆袈裟に振り抜いたまま、黒武者の身体はゆっくりと桜と散っていく。
そこには悲しみも喜びもなく、ただ確かなことは綺麗に何の穢れもなく――蒼天へと真っ直ぐに桜の花弁と舞って散っていく。
櫻華は黙ってそれを見つめていた。
櫻華の前に在るは、一面の桜の花弁――今だ消えず舞い散る桜に、櫻華は静かに目を閉じた。




