十三
武具は小太刀、術衣の柄は名の通りの桜、色は薄紅――
体術も武術も術式も秀でているところも劣っているところもなく、いたって平凡。唯一、小太刀使いという事だけが珍しいといえば珍しいといえるところかもしれない。小太刀は守りに適し、尺が短い分、刀よりかは使いやすいが、攻撃にしろ防御にしろ言うまでもなく相手と近接しなければならない。つまり、『戦う』となると使い勝手は悪くなるのだ。敵を自分の間合いに入れることは、それだけ危険が高くなる。
女の防人にとっては、近接は致命的なことだった。術で倒すことを基本としている女防人は、自分の間合いに入れないことが重要なのだ。その為、武具も薙刀を選ぶ者が多い。刀や太刀、槍を選ぶ者もいるにはいるが、数は少なかった。
小太刀となると、更に少ない。実際、教室でも小太刀を使っているのはこの少女だけだった。そう考えれば珍しいともいえる……が、それも驚くことでも、強いて気にするほどのことでもなかった。
成績といえば中の上。得意、不得意なものも特に無し。
周りが思う少女の性格は真面目で勤勉。さらに加えるならば、陰気で寡黙。教師たちの評判はよく、もくもくと仕事をする少女によく頼みごとをしていた。掃除をする当番、美化委員というものらしく一人でよく掃除をしている印象がある。いや、掃除の時だけではない。普段から少女は一人だった。
教室でも一人で本を読み、人と喋っているところを見たことがなかった。体術の時と同じく、武術、術式の修練でも一人でおり、それぞれの担当の教師と立会いをしていた。
授業の合間も一人、学院への道でも一人。聞けば、というより、聞かずとも一日見ればおおよそ分かってはいたことだったが、友と呼べる人間もいないらしい。作れなかったのか、または作らなかったのか……まあ、どちらかというよりは、おそらくはどちらもだろう。たまに、教室の学生が話しているときがあるが、それは一方的に喋りかけられ何かしらの頼みごとをされるか――または、からかわれ笑われている時だけだった。だが、そんな人物であるにも関わらず、不思議と周りから浮いた存在にはなっていない。孤高な人間は、ややもすれば悪い意味で目立つものなのだが、彼の少女は話題に上ることすらなく、やはり「たまに」笑われる程度の存在だった。




