十三
その景色に、魔の身体が止まる。
畏れるように――だけれど、それは桜の美しさに目を奪われたようでもあり。
――――ォォォオォオオ――――
櫻華の頭上へと刀を振り下ろした魔、刀を突き立てた武者達は、泣くように嘆くようにぱっと桜と散り、蒼天へと舞い上がった。
残った五体の魔。狭間に隠れることさえ忘れ、しかし、退くことは自身を滅することも知り。ただ、散華の術者に向かうほか仕様がなかった。
「――――」
向かってくる武者、櫻華は静かに視線を上げた。小太刀を柔らかく握り、桜の花弁と変わった己の血を纏い。ゆっくりと、地を蹴る。
それは、周りの誰が見ても鈍い動きだった。あれだけの傷を受けていれば当然と誰もが思い、そして、今までを見ているならば武者に敵うはずがないと考えたはずだった。だけれど、
「――――」
優雅に、艶やかに。櫻華は武者の間合いに入り、振り下ろされる刀を身体を回転させ避け、そのまま懐に入り小太刀を薙いだ。
桜と変わる武者――ザザッと足を滑らせ、円を描き。後ろから斬りかかる武者の刀を紙一重で流し、窘めるように腕に手を添えた。花弁を舞い変わる刀、腕――そして、櫻華は手を振り抜く。
パッと桜が舞い上がり、その中から漆黒の武者が突進してくる。けれど、櫻華は慌てることなく身を躱し。一連、二連と繰り出される斬撃を踊るように躱していき、武者が大きく振りかぶった一瞬、通り抜けざまに小太刀を薙いだ。
――ォォォオオオ
それは、嘆く声か、それとも、輪廻へと戻れる喜びの声か。桜と化す武者の声を後ろで聴きながら、櫻華は静かに視線を向ける。
残った魔は二体――櫻華はたんっと飛び上がり、桜が風に舞うように、ひらりとふわりと紅装束と紅桜花をたゆませ――
キン――
武者の前へと降り立った。武者は狙いを定め櫻華を斬ったはずだった。傷ついた身体、鈍い動き、しかも、ゆっくりと降りてくるその姿を捉えられないはずがなかった。だけれど、まるで宙に舞う花弁のように刀は櫻華を捉える事が出来ず、逆に降り立つ前の小太刀の一閃で両の腕は桜と化し。
――ット、と武者の横を通り抜けただけ、それだけで、武者の全てが桜と踊る。




