十二
桜の剣閃は、現れ振り上げた黒武者の腕と刀を花弁と化し蒼天へと舞い上がらせた。なお止まらず、押しつぶそうとする武者を小太刀を持っていない左手で薙ぎ払い、そして、一歩後ろに下がる。桜を突き抜け目の前に振り下ろされる刀。その下ろされた腕を逆手に持った小太刀で斬り上げ、身体を回転させ武者の背に回る。
掌底で武者をパンッと弾き飛ばし、けれど、左右から別の黒武者が襲いかかる。
「――――」
片方を受けつつ、体捌きで左右とも薙ぐ――考えるよりも先に櫻華の身体が動いた。その瞬間、空気が歪み上から武者二体が現れ刀を突き立てた。先程よりも瘴気が濃い……櫻華の散華が強まったことで、魔の力も上がったようだった。
――だが、それは、何より散華を畏れている証でもある。
全てを完全に避けるには後ろへ退くしかない。しかし、それこそが魔の狙いであることは分かっていた。後ろへ退いたところで背中を斬るつもりだろう。だからこそ、櫻華は全てを受けた。足を滑らせ、踊るように地で円を描き、逆手に持った小太刀と桜の装束を舞わせる。右の刀を小太刀で捌き、左の刀を掌で流す。身体を回転させ、上から突き立てられる刀を目前で躱し――だが、
ザンッ――――
もう一つの刀は避けきれず、櫻華の背を深く裂いた。
――キィン
飛び散る血と、染まる装束。だが、それでも澄んだ音を響かせ、櫻華は振り返ると共に小太刀を薙いだ。地面へと刀が刺さり動きが止まった武者を一閃し、桜の花弁と舞わせる。
なお、武者には囲われている。櫻華の一振りで武者一体は桜と変わるが、それでも他の魔は止まらず。九体の魔が押しつぶすように櫻華へと襲いかかった。一体を桜と共に吹き飛ばし、一体を小太刀で一閃させ、刀を流し捌き――しかし、
「――――」
一本の刀が櫻華の深くに突き刺さった。
二本、三本と刀は櫻華を薙ぎ――そして、四本目の刀が頭上に振り下ろされた。
――血が落ちる。一つ、二つと。
命の滴は、だけれど、地に落ちることはなく。
それは、紅の桜花と成った。
全ては刹那の間。永遠ともいえる一瞬。
自身の命を華と散らす――例えではなく、櫻華の血が花弁と化し舞い踊った。
「散華――桜花」
もう一段深く、散華の深奥に触れる。
己を散華と成す――命を燃やすことは特別なことではない。誰もが命を使い、戦っている。
戦いこそが全て……戦い死ぬことは自然なことだった。
ただ、命の奥底に戻れるかどうか。自然に成れるかどうか――
(戦いの先へ――その確かなものへ)
それに触れたと感じられた刹那――一面に桜が舞い散った。




