十一
振り下ろされる刀を僅かに身体を退くことで避け、後ろから迫る刀を半円を描くように足を滑らせ流しながら同時に右手を振り抜く。桜の閃きは魔を吹き飛ばし――だが、その桜の中から、また新たに黒武者が現れる。
魔の武者十体に囲まれながら、櫻華は舞い踊る。瘴気に包まれたその場所で、だが、冷たい墓場とも思える空間には桜の花弁が溢れ、死を死とも感じさせぬような美しさがあり。まるで遊ぶように小さな少女、櫻華は結んだ黒髪をなびかせ、羽織った桜の装束を揺らし、黒い武者の中を舞う。
――だけれど。
ザンッ――
黒武者の囲いは徐々に狭まり、薙ぐ刀は櫻華の肩をかすめ、足を斬る。桜と共に血の玉を散らせながら、それでも、櫻華の動きは止まらず。鋭く息を吸い、下ろされた刀を流すと共に身体を回転させ飛び上がり、黒武者の背を蹴り囲いから抜ける――だが、
――――ォォオオ
空気の揺らぎと同時に櫻華の背に別の黒武者が現れ、刀を振り下ろした。宙にある身体、更に背中から刀の間合いに入りに行っている体勢。
「――――っ」
櫻華は身体をねじり――そして、
ギキィィィンッ!
腰の小太刀を抜き放ち、武者の刀を受ける。だが、
――キンッ
澄んだ音を奏で小太刀は砕け、受けた衝撃のまま櫻華は地面に叩きつけられた。続けて迫る刀に櫻華は地面を転がり、地を手で叩いて飛び上がり、降りてもなお止まらず飛び退る。
――柄だけになった小太刀に一瞬視線を移し、櫻華は(ごめんね)と心で謝った。学院から与えられてからずっと共にいた小太刀。自分の心と一つにし、研いできたもう一人の自分。形在る物はいずれ崩れる――だからこそ、大事にした。崩れるからこそ、永遠になるようにと。
「――――」
黒武者が迫る中、櫻華は砕けた小太刀をそっと地に置き、視線を上げた。
もう一つの小太刀――顕華から与えられた竜女の双刀。本来なら使いたくはなかった。それは自分と共に在った刀ではないからだ。もう一人の自分と成ってくれる?――そう問いかけても、当然ながら小太刀は応えてくれない。
――だけれど。
貴女の思うままに――そう顕華が微笑んでくれた気がした。
「ありがとう」
櫻華は呟き――竜女の双刀を抜き放つ。




