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櫻華の桜  作者: shio
第十一章 桜は血に染まり
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 白峰学院までは長い道のり。馬車に揺られながら、善現はふと櫻華を見つめた。


「……あら」


 阿楼那はあまり喋ることはなく、ましてや、櫻華もまた進んで話す人間ではないことは会って短い時なれど善現も分かっていた。

 静かな馬車の中、だからこそ気になって視線を向けたのだが――櫻華は壁に寄りかかりうたた寝をしていた。 


「阿楼那さん」


 小声で善現は伝え、櫻華へと目を向けさせる。


「これは……」

「ええ、なんてあどけない顔」

「散華と聞いてどんな人間かと思ったが……まさか、こんな幼い人間だとは思わなかった」

「ほんとうに」


 阿楼那の言葉に善現は頷いた。

 善現が最初に櫻華を目にしたのは竜宮の間。その印象は静かで鋭く、まさに桜のように儚く凜として。この者が散華の人間と、随分と幼いという驚きと共に不思議な感情が湧いた。八部衆にとって散華の人間というのは……言葉が難しいが絶対の者であった。古の誓約は血と共に受け継がれ、心の奥に動かぬものとして存在していた。

 そんな散華の人間――だが、今こうしてうたた寝している姿を見ると、年相応の愛らしい少女に見える。


「阿那婆達多竜王も仰っていたが、生まれて十数年といえば我らで考えれば赤子も同然。そんな子がたった一人で我らと対峙したのだ。疲れて当然だろう」

「そうですね……でも、私達はこんな幼い子に」

「だからこそ我らは絶対に守らねばならない。二度と傷つけないように」

「はい」

「今は寝かせてやろう。嬉しいことじゃないか」

「え?」

「気を抜いてくれているのだろう。安心していなければ、うたた寝などしない」

「……はい、そうですね」


 善現はにこと微笑み。静かにそっと、上に羽織っていた装束を櫻華にかけてあげた。


 三日という短い時間。だけれど、櫻華という人間を知るには十分な時間であり、阿楼那も善現もあまり情を持ってはいけないと思いつつも散華の少女というだけではない親しさを感じ始めていた。


(顕華様があれほど好意を持たれていたことも分かります)


 善現は内で笑った。成程、接すれば接するほど物言わぬ桜のように人を惹かせる魅力がある。だからか、別れが近づくにつれ寂しくもあり……学院の近くまでと言う櫻華に向かって善現は自然と言葉を紡いでいた。


「いえ、櫻華殿。学院までお送りします」


 櫻華は無言。だが、それもいつものことと思い、善現は続ける。


「櫻華殿は望まないかもしれませんが、何かありましたら我らをお呼びください。竜王の命に従っているだけでなく、我らの意思で櫻華殿をお守りしたいのです」


 善現の嘘偽りない真っ直ぐな言葉に……櫻華は僅かに視線を落とした。


「ありがとうございます……ですが」


 礼を伝え――だが、それ以上櫻華は何も言わなかった。


「櫻華殿?」


 不思議に思う善現に、櫻華は一度だけ瞳を閉じ――そして、顔を上げ外を見つめた。

 風に乗り、櫻華の桜が一片舞う。櫻華は言葉を発することなく、手元にある二本の小太刀と、自身の桜装束に手を触れた。


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