一
「申し訳ありません。本来なら学院までお送りしたいのですが、わたしもまた友人に会いにいかなければなりません。阿修羅様の元と、迦楼羅様の元へ」
木々は潤い、竜が族の地は常に清らかで瑞々しい息吹に溢れている。朝の陽を浴びて輝く新緑の葉が風に揺れる中、顕華は頭を下げ櫻華に謝った。
櫻華は微かに首を振った。今は竜が族の装束ではなく学院の制服に身を包み。
傷が治るまでと特に顕華から強く引き留められ、ようやくにして傷が塞がったのは櫻華が竜王達と話してから十日も経った頃。そして、今日、櫻華は学院に戻ることにした。なお顕華は名残惜しそうだったのだが、それでも幼い少女の顔から竜女へと変えすっと櫻華へと近づいた。
「櫻華様、これを」
顕華が布に包まれた物を差し出す。
「竜女の双刀――その一振りです。櫻華様がお持ちください。我ら竜族の誓いの証として」
櫻華が簡単に受け取らないことは分かっていた。だからこそ、顕華はなお続けた。
「この刀ならば、存分に櫻華様の力も使えるはずです。護刀として――対となる刀はわたしが持っていますから」
「顕華」
「御迷惑とはわかっています。ですが、もはや櫻華様は櫻華様お一人のものではありません。御自愛を――くれぐれも」
――櫻華を見つめる強く真っ直ぐな意思と心。
「……ありがとう」
櫻華は礼を伝え、小太刀を受け取った。そのことに、顕華は嬉しそうに微笑み、
「櫻華様、ありがとうございます」
小太刀を受け取った櫻華の手をきゅっと握った。そして、すっと後ろを振り返る。
「櫻華様のこと、宜しくお願いします。阿楼那さん、善現さん」
「はい」
二人の女性が返事を返す。櫻華は断りたかったのだが、顕華が許さないことも分かっているため黙っていることにした。阿楼那は摩那斯竜王配下の第一軍将。そして、善現は和修吉竜王配下の第一軍将だった。先の話し合いのおりに櫻華に傷をつけてしまったことへの謝罪か、摩那と和修が顕華へと頼んだのだった。
あの日から、櫻華に対する竜族への態度は正反対のように変わってしまった。その気持ちや好意は有り難く無下にすることなどしないのだが、櫻華にとっては迷惑でしかない。
「では、また。櫻華様」
もう一度きゅっと手を握り、顕華はそっと離れた。
「参りましょう、櫻華殿」
阿楼那が声をかけ、善現が優しく馬車へと促す。櫻華は頷き、すっと歩き出した。
「あ、そうだ。刀はお貸しするだけです。お返しくださいね」
櫻華を見送りながら、顕華はその背に一言声をかける。
「必ず、わたしに。約束ですよ、櫻華様」
振り返る櫻華に顕華はそう伝え、そして、にこと微笑んだ。




