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櫻華の桜  作者: shio
第十章 魔酔い夜叉
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 目の前の夜叉はどうか――強いのは間違いない。一瞬で顔を潰した自分の父とは比べものにならないだろう。

 自分とならどうか?

 殺せるかもしれないし、殺されるかもしれない。本来なら、それくらいの戦いは好みであったが、どうにもこの夜叉族の主となると気が乗らない。単純に面白くなさそうだからだ。


「味方を殺すわけにもいくまい、夜叉殿」

「そうだな」


 ――果たして、どちらがどちらを殺すと言っているのか。そのことにはあえて触れず、夜叉は短く応じた。

 これ以上の話は無用か――神楽は内で呟き、


「散華の娘の事は知っただろう。今、どうにかしなければ奴はさらに力をつける。我らが思うよりも早く、そして、高く」

「散華の娘のことは聞いている。だが、奴が人間につくとなれば潰すだけだ、我らの力で」

「我らの力、か」

『我らの力』に魔が入っているかどうかは聞かず、ただ、櫻華の存在を知っていることだけを確かめ。

「会って貰ったこと、感謝する。いずれ戦いの場で」


 それだけ伝え、早々に背を向け神楽は歩き出した。



「――夜叉様」


 神楽が出て行った扉に視線を向け、夜繰祠は静かに――まるで夜の風のように囁いた。


「あの者……どういたしますか?」

「放っておけ」


 夜叉は短く応える。


「ですが……!」

「夜繰祠」

「っ」


 夜叉の視線、その瞳に、声に、


「……申し訳ありません」


 夜繰祠は――それは夜叉の姿から逃げるように――俯いた。


 年の離れた夜叉は夜繰祠にとって兄であり、そして、父だった。

 夜叉の名を体現する如く闇のように深く、強く、冷たく……けれど、夜のように静かに全てを包み。

 父として兄として憧れ、それはいつしか家族の愛情を超える想いとなっていた。

 けれど……だけれど。


(お兄様……)


 兄は変わってしまった……『あの女』が来てから。


 夜繰祠は拳を握った。白い指に、鮮やかな血が滴り落ちる。

 そして、あの女――緊那羅の娘。

 自らの父を殺し、そして、兄を愚弄した女。


「――――」


 夜繰祠の血は流れ続ける。


 ――それに気付かない夜叉ではなかっただろうが、だが何も言わず、神楽に向けてか、それとも、夜繰祠に向けてか冷ややかに薄く嘲笑った。


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