一
――散華ノ者、竜宮に在り。
その話は瞬く間に八部衆の中に広まった。散華ノ者――櫻華の存在が表にでてから、八部衆はその行動を注視している。もちろん神楽もその事は伝え聞いていた。
(色男――いや、色女で羨ましい限りだ)
神楽は笑う。
(まあ、誰が近づいたとて『あれ』はどうにもならぬだろうがな)
『あれ』――櫻華の性質はよく知っている。周りがどうにかできる性質でもなければ、器でもない。曲がらぬだろうし、壊れることもないだろう。
(唯一、面倒といえば櫻華の『族』の問題だろう。『人族』という本質だけは櫻華でもどうにもならぬ)
――だが、それを『壊せば』櫻華はもっと面白くなる。
(自分との死合もより面白くなるだろうよ)
神楽は笑みを絶やさず歩を進めていく――と、その時だった。
「止まれ!」
気配はすでに知っていたが、声をかけられれば無視するわけにもいかず神楽は仕方がなく足を止めた。
「ここは、夜叉の地。緊那羅が族の者、如何な用があって訪れた」
お互いのことは知らずとも、それこそ八部衆の血が成せるものかも知れないが、どの部族の者かは分かった。とはいえ、それがどういう者かは――まあ、櫻華のように器で感じる者もいるが――説明せねば分からない。
「夜叉殿に伝えよ」
神楽は静かに口を開く。
「緊那羅の娘――いや、緊那羅の妹が新たな族長に変わって挨拶に来たと」
さてはて、『自分』のこと――親、同族殺しが伝わっていれば話が早いのだが。そう内で呟き、神楽はまた笑った。




