十一
「私も話しかけたり、一緒にしようと誘っているんですけど、妙月さんいつも一人でいようとしていて……」
神楽の表情を見て、気遣うように巴がすぐに口を開いた。確かに巴の性格ならばそうだろう。除け者にしたり悪感情を持つようなことはしないはずだ。
(他の者が同じかどうかは知らぬがな)
笑みを浮かべたまま、だが、同じ笑みでも苦笑から嘲笑に変えて口には出さず内心で呟く。
「あの、識さん……?」
話の内容だけに、何故笑みを浮かべるのかが分からず巴が訝しんでいると、神楽は快活に言った。
「いいだろう」
「え?」
咄嗟に意味が分からず驚く巴に、神楽は笑った。なにが楽しいのか愉快そうに。
(まあ、しばらくはこやつらと遊んでやってもいいだろう)
暇つぶしにもなるまいが、何もしないよりは幾分かは時間が潰せる――そう内心で呟き、神楽は先ほどの返事を返した。
「何を驚く。わしと組み手をするのだろう」
「あ、はい……宜しくお願いします」
戸惑いながら返事をする巴へ向かって一歩踏み出し、一瞬だけ櫻華へと視線を向けた。
櫻華の傍には芹奈がいた。組む相手が居ないために、芹奈が相手をするのだろう。今聞いた話のかぎりでは、芹奈が相手をするのはいつものことなのかもしれない。そのことに関して誰も気を留めてはいなかった。
「あれでは、相手はおらぬだろうな」
「識さん?」
唐突な言葉に巴は再び神楽へと視線を向けた。それを受け、神楽は三度笑う。
「櫻華のことだ」
「え? あ、はい、そうですね」
何故、そこまで櫻華のことを気にするかが分からず、巴は曖昧に頷いた。
別の場で、芹奈の遅い打ち込みを櫻華は捌いていく。それが、いつものやり方かどうかは分からないが、一つ一つの基本の型を芹奈は丁寧に教えているようだった。それに従い、櫻華も基本の動作を繰り返していく。
組み手というのに、櫻華は自ら攻めることは一切せず、言われるがまま真面目にただただ芹奈の打ち込みを流し、捌いていっていた。
まるでお遊戯のようだ、と神楽は思った。何の為の修練なのかまるで分からない。あれで、役に立つと思っていることが理解できない――とはいえ、憤っているわけでも呆れているわけでもない。神楽は嘲りを込めて、そして、少しの同情も込めて笑った。
(宝の持ち腐れであろうよ)
櫻華の腕、足、身体、指の一つ一つまで――流れるようなその一連の動きを見て思う。この娘は本当におもしろい。
だからこそ、勿体無いと同情もする。周りに嘲りを込めて。
「さて、果たして――」
――相手にされていないのはどちらだろうな。




