八
「よく来てくれた散華の子よ。私は娑伽羅という。竜の主として、皆を纏める立場にいる者だ。そして、知った者もいるかと思うが、左右に並ぶは竜王の名を持つ者たち。大事ある時、竜族は必ずこの八竜王で事を決めている」
「はい」
櫻華の答えは短い。だが、そのことはあえて気にせず娑伽羅竜王は続けた。
「八部衆のこと、そして、その現状のことを知っていると聞いている。早速で悪いのだが、緊那羅族の娘、神楽について聞きたい」
「『娑伽羅竜王』、私がお話します」
あまりに不躾な質問に――それは櫻華を軽く見ている証でもある――顕華は竜女として竜の主を呼び止めた。
「櫻華様、申し訳ありません。このような……」
櫻華は首を振った。櫻華もまた顕華の気持ちはよくわかっている。
「櫻華様……ありがとうございます」
顕華は気持ちを伝え微笑み、そして、すぐに事の話を始めた。
「緊那羅が族長である緊那羅が亡くなられました――娘である神楽さんの手によって」
櫻華は――その言葉にも動じることはなかった。納得もする。神楽ならば、するだろう。
そしてまた、自分が呼ばれた意味も理解する。
「神楽さんは夜叉の元へも向かっているそうです――八部衆として、このことは無視するわけにはいきません」
自分の気持ちは押し殺し、顕華は竜族の一人としての考えを語った。
(……夜叉)
櫻華は内で呟いた。山頂での戦いを思い出す。とはいえ、あの者が夜叉の全てではないだろうが、感情は分かる。人を弄び世を乱そうとしていることは。
竜族の考えもそれでわかった。人間を信用していないとはいえ、八部衆と人間との戦は危険すぎるのだ。それを安易に起こされてしまえば、状況によっては一族が滅ぶ可能性もある。だからといって、緊那羅、夜叉と敵対して喜ぶのは人間だった。
それで、神楽のことを知る自分が呼ばれた。どんな思想を持ち、感情を持っているのか。力は器はどれほどなのか。如何なる人物か、それを知りたいのだろう。
「――――」
櫻華は心を重くした。一度だけ瞼を閉じ、開くと同時に娑伽羅竜王を見つめる。
「事の話はわかったようだな。では聞きたい。神楽という者を、お前はどう捉える」
櫻華は黙っていた。しばらくの静寂の後、『答えない』ことを悟り、その場の空気が変化する。
「成程……散華の子よ。お前と神楽という者は親しいようだな」
顕華は「違います!」と口を開きそうになり――櫻華が動じずいることに触れて、黙った。櫻華には惑いも迷いも恐れもない。




