七
「御父様、櫻華様に神楽さんのことをお聞きするつもりですか」
「その神楽なる娘が如何なる者か。それを少しでも知らねばならない。そして――散華の娘との絆も」
「櫻華様は御父様がお考えのような方ではありません。そして、問われて答えるような方でもありません」
「ふむ、さすがに硬いというわけか」
「違います! 櫻華様はたとえ敵であろうと、その者を軽く扱うことなどいたしません!」
顕華は続ける。
「そして、私もまた友と認めた方を家の事情で扱うなどということは断じてしません。櫻華様は私の友人です。御父様、竜王の皆様方、お考えをお直しください」
「顕華」
だが、娑伽羅竜王は娘でもある竜女の言には心動かさず、冷たく重く言い放った。
「お前の気持ちは分かる。だが、事は竜族の命運に関わる問題。それは分かっておろう」
「ですが、御父様っ」
「――顕華、そこまでだ」
摩那斯竜王が静かに口を開き顕華を止める。
「……っ」
――お姉様どうして、といいかけ顕華は『その事』に気付く。
この気配、この空気――気付かないはずがなかった。とともに、心が悲しみで溢れる。守れなかったことを、巻き込んでしまったことを。
――――ひらりと、
一枚の花弁が舞うように櫻華はすっと竜宮の間へと入るとその場に正座した。
その姿には気負いや緊張もない。まったくの自然。
「……妙月櫻華です」
一礼した後、一言名乗り――そして、顕華と八竜王を見つめた。
「櫻華様……」
顕華は瞼を伏せ呟き、とともに、怒りも覚え拳を握る。
櫻華の後ろにはリンと、摩那斯竜王配下の第一軍将、阿楼那が居た。自分が櫻華へと共にいればここへは来させなかっただろう。だからこそ、顕華が竜宮の間に居る間に櫻華を迎えにいった。
父や八竜王を尊敬し誇りに思っている。その思いは微塵も変わりはしない。だけれど、事態が急を告げているとはいえ、このようなやり方は納得できなかった。
「…………」
顕華は立ち上がり、櫻華の元へと近寄った。そして、その横へと座る。
場の空気が僅かに揺れた。顕華のその行動は、櫻華と共にいるという意志の現われ。事によれば、八竜王とも対するという意味。
「妙月櫻華……散華の子か」
――一瞬の静寂の後、最初にそう切り出したのは、竜主である娑伽羅竜王だった。随分と幼い、というのが最初の印象だが、その瞳は真金の如き強さがある。
(竜女が求めた少女か)
娘とはいえ、その意を無視するわけにはいかない。向けられる櫻華の視線には動じず、娑伽羅竜王は話を始めた。




