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第二章 影と真実

第二章 影と真実


     一


 2024年の新潟市中央区。

 美月と詩月は、タイムトラベルの初体験から立ち直り、自分たちの祖母である美代には双子の妹がいると知る。同時に、彼女たちは、美代の双子の妹を探す決意をするのであった。

「ねぇ、詩月。驚くかもしれないけど、私の推理を聞いてくれる?」

 と、美月が神妙な面持ちで告げた。

 美月と詩月は、自分たちが通っている中学校である宮浦中学校の屋上にいる。宮浦中学校は、新潟市中央区万代地区にある公立の中学校だ。二人は昼食を食べ終え、天気の良い屋上で話し合っているのである。

 話し合いの内容はもちろん、タイムトラベルの件である。あの未知なる冒険に、二人の興味は心底高まっていた。

「推理って何?」

 と、詩月。

 彼女は、不思議そうに目を見開いている。

「私たちのおばあちゃん。美代さんは、タイムトラベラーだった可能性がある」

「タイムトラベラー?それってつまりアタシたちと同じってこと?」

「そう。だって五芒星のペンダントの所有者だったんだから。多分だけど、このペンダントは双子が同時に触れるとタイムスリップできる代物だと思う。もちろん、まだ他に謎は隠されているかもしれないけど」

「おばあちゃんはどんな時代にタイムトラベルしたんだろう?」

「それはまだ判らないわね。でも、ヒントは隠されている。五芒星のペンダントの中央部分には、デジタル式の数字が記されている。詩月が持っているペンダントは、1996と記されている。これは恐らく、タイムスリップできる年代のことだと思う。つまり、1996年と記されているから、私たちは、1996年にタイムスリップしたのよ。そして、おばあちゃんが持っていたとされる五芒星のペンダントには、1968と記されていたみたい。これは、おばあちゃんが1968年にタイムスリップした可能性があると意味している」

「なるほど、確かにそれだと辻褄は合うね」

「でも、おばあちゃんがいつの時代から1968年にタイムスリップしたのかが、まだ曖昧なの」

「う〜ん。おばあちゃんが亡くなったのは1982年だから、それよりも前だよね?」

「そう考えるのが自然ね。でも、私は別の見解を持っている」

「別の見解って?」

「私たちは2024年の現代から1996年にタイムスリップしたわよね。つまり、今から28年前。そして、1996年から28年前は1968年。もしかすると、五芒星のペンダントは、二十八年周期に能力が使えるようになるのかもしれないわ」

「ちょっと待って、その推理は間違っているよ。だって、おばあちゃんは1996年の世界には生きていないんだから」

「そうね。でも仮に、1996年の世界で、おばあちゃんが生きていたとしたらどう?」

「人は死んだら蘇らないよ。生きているはずが…」

「私はこう考えている。1996年の世界を生きていた若い頃のおばあちゃんが、1968年の世界にタイムスリップして、そのままその世界に留まったの。そして1968年の世界でおじいちゃんと出会い、そこで結婚した」

「なんだか複雑な話ね。仮に1996年の世界におばあちゃんが生きていたとしたら何歳なの?」

「おばあちゃんの生年月日は今度お父さんに聞いてみるとして、今のところは謎ね。でもね、もしかすると、1996年のおばあちゃんは十四歳の少女だったかもしれない」

「どうしてそう思うの?」

「私たちが十四歳だから。五芒星のペンダントは十四歳の少女にだけ反応する可能性があるから」

 と、美月は推論を告げる。

 あくまでも美月の積み立てた仮説であり、この段階ではそれが正しいのかは判らない。しかし、詩月はそれがなんとなく正しいのではないと思えてきたのだ。

 十四歳というのは微妙な年齢である。子供と大人のちょうど中間地点くらい。そして、思春期により、自分とは何者なのか考えるような歳なのだ。当時に、思春期特有の鋭い感受性があることも事実であろう。

 その思春期特有の少女が持つオーラみたいなものが、五芒星のペンダントに反応し、それが双子というトリガーから、タイムトラベルが可能になる。これが、美月の導き出したタイムトラベルの仮説であった。

「仮に…」詩月は困ったような顔をしながら告げる。「1996年の世界で十四歳だったおばあちゃんがいるとすると、双子の姉妹がいるはずだよね?確か、お父さんもそう言っていたし」

 その言葉を聞き、美月が答える。

「その通り。おばあちゃんは双子だった。それは次の可能性を意味しているわ」

「可能性って?」

「私たちのおばあちゃん、美代さんは亡くなってしまったけど、美代さんの姉妹は、この時代で生きている可能性がある。仮に1996年の段階で十四歳だったのなら、2024年では。四十二歳だから、当然生きているはず」

「おばあちゃんの姉妹を探せばいいんだね?」

「うん。おばあちゃんがタイムスリップしたのなら、双子の姉妹も同時にタイムスリップしていたはずだから、当然タイムスリップに関する知識があるはずよ。タイムトラベルにはもしかするとリスクがあるかもしれないから、慎重に行うとして、まずは2024年の世界でできることから始めましょう」

「そのできることっていうのが、おばあちゃんの姉妹を探すってことだね?」

「その通り」

「でもどうやって探せばいいんだろう?」

「中学生の私たちにできる捜索方法は、主に二つ。一つは家庭内調査。もう一つはネットを利用した捜査。まずは、家庭内での調査から始めてみましょう」

「うん、アタシも協力するよ」

 詩月の目がやる気に満ちた色を帯び、声も軽快になる。

 ちょうどその時、昼休みの終了を告げる校内ベルが鳴り響いたのであったー


     二


 学校を終え、自宅に戻った美月と詩月は、二人で弘の書斎に向かい、内部調査を始めていた。先日の遺品整理の際、二人は弘が保管していた手紙の類を見つけていたのである。弘はマメな人間であり、交友のあった人間と手紙のやり取りをしており、その手紙をキレイにファイリングしていたのだ。

 そのファイルを見つけた美月が、詩月と共に手分けてして手紙の内容を確かめていた。人の手紙を勝手に読むのはどこか気が引けたが、弘はすでに故人である。故に問題ないであろうというのが、二人の見解である。

 弘がやりとりしていた手紙はかなり数が多かったのだが、中でも多いのが、水島紗代子という人間との文通で、この人間の正体はすぐに判った。水島紗代子というのは、弘の妹であり、まだ生存している。それも同じ新潟市内に在住しているようであった。

 手紙の宛名を見る限り、新潟市の西区小針と記されている。美月たちが住む新潟市中央区万代から西区の小針までは、車で二十分前後である。運転免許を持っていない中学生の美月たちの移動手段としてはバスであるが、バスで行く場合も同様に二十分前後だ。

 手紙に記された宛名を丁寧にメモ帳に書き写す美月。その隣で様子を見守る詩月。軽く手紙の内容も見てみたが、当たり障りのない日常の出来事が記されているだけであり、美代に関する情報は全く載っていない。

 手紙の整理をやめた二人は、リビングにむかい、夕食を作っている母である香苗の背中に向かって声をかけた。

「お母さん、ちょっといい」

 詩月がそう言うと、料理の手を止めた香苗がクルッと振り返り

「何かあったの?」

「あのさ、水島紗代子さんってどんな人?」

「紗代子さんっておじいちゃんの妹の?」

「うん」

「おじいちゃんのお葬式の時、前列で泣いている人がいたでしょう。背は小さくて、痩せている小柄なおばあさんよ。でも、紗代子さんがどうかしたの?」

「ちょっと会いたいんだけど」

 すると、香苗は驚いた表情を浮かべた。

 それはそうだろう。何しろ、美月や詩月は、ほとんど紗代子に会ったことがないのだ。両親の兄弟とは会う機会があっても、祖父母の兄弟とはなかなか会う機会がない。核家族化が進んだ日本では、それは当然であろう。

「会うって紗代子さんに?…どうして急に?」

「おばあちゃんのことでちょっと聞きたいことがあるの」

「おばあちゃん?美代さんのことで」

「そう。あんまり情報がないから。お母さん何か知らない?」

「さぁ、あんまり知らないわね。お母さんがお父さんと結婚する前に、美代さんは亡くなってしまっているから。私も会ったことないのよ」

「そうなんだ。ねぇ、紗代子さんに会ってもいいでしょ?」

「まぁいいけど。そうしたら、お母さんの方から連絡しておいてあげるわ。いつ行く予定なの?」

 そう問われた詩月は、視線を隣に座っている美月に向けた。

 その視線を感じた美月が、詩月の代わりに口を開く。

「今度の日曜かな。学校も休みだし」

 そう言われ、香苗は視線を宙に向け

「そう、なら連絡しておいてあげる。場所は判るの?」

「うん。おじいちゃんの部屋にあった手紙には、小針って宛名になっていたから、小針に住んでいるのだと思う」

「う〜ん、確かに小針だったと思う。おじいちゃん、紗代子さんとは頻繁にやりとりしていたみたいだからね。おじいちゃんは、本当に家族を大切にする人だったから」

「判った。じゃあお母さん、紗代子さんに連絡宜しくね!」

 美月がそう言うと、香苗はにっこりと笑みを浮かべ、今夜の夕食である豚肉のピカタ作りに戻った。

 夕食を終えると、美月と詩月は自室で話し合っていた。

 二人は中学生であるため、個別の自室があるわけではなく、八畳のフローリングの洋室を二人で使っていた。

 詩月はベッドに寝転び、美月はフローリングの床にクッションを敷いて、その上に座っている。リラックスした夕食後の空気が流れ、その緩やかな雰囲気に乗るように、詩月が尋ねた。

「紗代子さん、おばあちゃんのこと知ってるかな?」

 それを受け、しばし考え込んだ美月が重い口を開く。

「可能性は高いと思う。紗代子さんはおじいちゃんが最も文通をしていた相手だし、兄弟だから、おじいちゃんの子供の頃を知っているはず。仮に美代さんが十四歳の時に、1968年のおじいちゃんに接触していたのだすると、その時のおじいちゃんは十八歳くらいのはずだから、年齢は近い。紗代子さんだって美代さんに会っていた可能性は十分に考えられるわ」

「知ってるといいね」

「うん。紗代子さんっておじいちゃんのお葬式の時に泣いていた人って言っていたわよね。それだけおじいちゃんに対する愛情が深かったのだと思う。お母さんも言っていたけど、おじいちゃんは本当に家族を大切にしていたのね。そうなると不可解なのは、どうしてそれだけ家族を大切にしていたおじいちゃんが、美代さんのことだけは、あまり語りたがらなかったのか。これは大いなる謎よ」

「確かにそうだね。何でだろう?」

「その答えを、紗代子さんが知っているといいのだけど。知っていなくても、ヒントくらいは教えてくれるとありがたいわね」

「とにかく次の日曜日に調べてみよう。何だか楽しみね」

「そうね。私もワクワクしてる。おばあちゃんがどんな人だったか、必ず調べてみせるわ」

 と、美月は高らかに宣言する。

 その声は、どこまでもやる気に満ちており、運動会の徒競走で一番になった生徒のように、爛々とした瞳をしていた。


     三


 日曜日ー

 水島紗代子、六十五歳の家は新潟市の郊外にある古い日本家屋であった。庭には、手入れされた庭木と小さな池があり、植物を大切に育ているという感じがする。

 美月と詩月の二人は、新潟駅のバスターミナルから紗代子の家のある小針までバスで向かい、ほとんど会ったことのない紗代子に少し緊張していた。

 しかし、当の紗代子は明るい性格で、美月や詩月の訪問に驚いていたものの、親切に向かい入れてくれたのである。お葬式の際、最前列で涙を流していた弔問客というイメージだけが色濃く残っていたが、紗代子は弘を失った悲しみから、脱却しているようで、にこやかな笑顔を浮かべていた。

「それで、私に用ってなんなの?美月ちゃんや詩月ちゃんから会いたいなんて、どういう風の吹き回しかしら?」

 と、紗代子はキッチンからお茶とお菓子を持ちながらそう言った。

 その言葉に答えたのは、美月である。彼女は、年季の入ったリビングの机に座り、キリッとした瞳で口を開いた。

「私たちが聞きたいことは、おばあちゃんについてなんです。つまり、美代さん。何か知りませんか?」

 美代という名前が出て、紗代子は大層驚いた表情を浮かべた。原始人がロボットを見ているかのような瞳である。

「どうして美代さんについて知りたいの?」

「ちょっと訳があって。あの、おばあちゃんとおじいちゃんが出会ったのがいつだったか知っていますか?」

 すると、紗代子はしばし考え込む素振りを見せた後

「もちろん覚えているわ。弘さんが十八歳、そして美代さんは十四歳だったの。二人は四つ歳が離れているからね」

「そうなんですか?それで、おばあちゃんは双子だったはずです。姉妹について何か知りませんか?」

「確かに美代さんは双子だったわ。そして彼女には妹がいた。確か名前は理沙って言うらしかったけど、私は数回しか会ったことがないわ」

「会ったことがあるんですか?」

「えぇ、もう遙昔、私が十三歳で、向こうは十四歳だったの。でもね、私が知っている理沙さんは、十四歳の彼女で、それ以降は知らないの。知っているのは美代さんだけ。不思議なのはね、美代さんって昔、美沙って理沙さんに呼ばれていたの。私は確かに聞いたわ。兄さんは聞き間違いだって言っていたけどね」

 美代は美沙と呼ばれていた。

 この新たな情報は、美月の琴線に触れた。

 美月がしばし考え込むと、代わりに詩月が尋ねる。

「おばあちゃんってどんな人だったんですか?」

 その問いかけに、紗代子は答える。

「それがね、美代さんってかなり不思議な人だったのよ。だって戸籍がないんだもの。だから兄さんと結婚する時色々大変だったのよ。だって親族とか、そういう家族が誰もいないって言うんですからね。弁護士とかにも相談したのよ。でもね、戸籍を作るのって面倒なのよ。自分の出生を証明できる書類とかが必要になるからね。だけど美代さんには、それらが何もなかった。本当に何もないの」

「じゃあどうやっておじいちゃんと結婚したの?」

「法律上、二人は結婚していないの。あなたたちはまだ子供だから教えてもらっていないかもしれないけど、事実婚っていうのよね。婚姻届は戸籍がないとダメだから、兄さんと美代さんは婚姻届を出していない」

 弘が事実婚であるというのは、中学生の美月や詩月にとって、初めて聞く情報であった。どうやら弘には、まだまだ隠された何かが潜んでいるような気がする。詩月が出されたお茶を一口飲むと、隣に座っていた美月が口を開いた。

「ねぇ紗代子さん。事実婚だと子供はどうなるの?お父さんも戸籍がなくなってしまうの?」

 その問いに、紗代子は答える。

「子供の戸籍はね、戸籍がある両親の方に記載されるから、あなたたちのお父さんには戸籍があるし、もちろんあなたたちもあるわ。だから安心しても大丈夫よ。美代さんには戸籍がなかったけど、兄さんにはあったから、兄さんの戸籍に記載されたのよ」

「そうなんだ。でもどうして美代さんには戸籍がなかったんだろう。何か生まれた時に問題でもあったのかな?」

「それがね…」

 そこまで告げると、急に紗代子は立ち上がり、奥の部屋の方へと消えていく。しばし、リビング内には、美月と詩月の二人だけが残される。二人はこの突然の沈黙に唖然としながらも、辺りを見渡し、紗代子が戻ってくるのを待った。

 紗代子の家は、恐らく築三〇年以上は経っているだろう。リビングの形は現代的ではないし、どこか古びている。しっかり掃除をしているのだろうから、清潔さは保たれているが、経年の汚れは隠しきれない。

 五分ほど経つと、紗代子が奥の部屋から出てくる。その手には、何やら手紙のようなものを持っていた。

「これ、私が若い頃に美代さんにもらった手紙なの。不思議な手紙なのよ」

 懐かしそうに手紙を見つめる紗代子。

 そんな彼女の様子を見守りながら、詩月が口を開いた。

「どう不思議なんですか?」

「えっとね、なんて言えばいいんでしょう。とにかく不可解なのよ。だって、この手紙には、美代さんが未来からやってきた人間って書かれているんですもの」

 美月も詩月もその言葉を聞き、全身を凍り付かせたー


     四


「美代さんが未来人?それは本当なんですか?」

 と、詩月が尋ねると、真剣な瞳をした紗代子が答えた。

「えぇ、本当よ。ここを見てちょうだい」

 紗代子は手紙を二人に見せる。ちょうど、未来人であると記載された箇所であった。


『紗代子ちゃん、私には秘密があるの。それはね、私は1996年の未来からやってきたということ。つまり、私は未来人なのよ。これを知っているのは、私以外には弘さんだけ。でも、紗代子ちゃんは私によくしてくれたから秘密を話します。私を知って欲しいから。もちろん、信じられないかもしれないけど』


 手紙はこの続きも書かれているようであったが、紗代子は全てを見せず、テーブルの上に伏せてしまった。しかし、確かに未来人であるという記述がされている。やはり、美月の推理通りである。美代は五芒星のペンダントを使って、1996年の世界から1968年にタイムトラベルしたのだろう。

「紗代子さん、この手紙っていつもらったんですか?」

 と、美月が尋ねた。

 紗代子は、テーブルの上に置かれた手紙を丁寧にしまうと

「これは私の成人式の時かな。神妙な顔をして美代さんがこれを渡してくるから、なんだろうと思ったのだけど、読んでびっくり。だって小説みたいな話でしょ」

「紗代子さんはこれを信じているんですか?」

「到底信じられるような話ではないわ。でもね、彼女が未来人だと仮定すると、色々辻褄が合うのよ。私は美代さんが十四歳の時から知っているけど、その時から彼女は他とは違う空気を持っていた。別世界のオーラみたいなものね。時代に合っていないというかそんな感じ。服装も独特だったし、喋り方もね。彼女が未来人だったとすれば、当然戸籍はないわよね。身寄りもないってことになる。だから今思えば本当に未来人だったのかもって気はするわね」

「そうですか?美代さん、タイムトラベルに関して何か言っていませんでしたか?」

「そういえば、ある時美代さんが言ったのよ。私は早く死ぬってね」

「早く死ぬ?」

「えぇ、タイムトラベルの呪いって言っていたけど、詳しくは知らないわ。彼女の話ではタイムトラベルにはいくつか制約があるみたいだったけど」

 タイムトラベルの呪い。

 その言葉を聞き、美月は脂汗をかいた。自身が思い描いているある推論に、その呪いが関係していると考えたためである。美月が黙り込むと、代わりに詩月が尋ねた。

「もしかして美代さんは、タイムトラベルの呪いで亡くなったんですか?」

 紗代子は、難しい顔をしながら答える。

「それは判らないわ。でもね、彼女の死には不可解な点も多いのよ。美代さんの死因をあなたたちは知ってる?」

「詳しくは知りません。でも心不全だって」

「そう。美代さんの死因は心不全だったの。それも原因不明の。1982年当時、美代さんはまだ二十八歳だった。だからね、心不全になるような歳じゃないの。不思議でしょ?二十八歳の若い女の人が心不全で亡くなるって…私は昔、美代さんがタイムトラベルの呪いで早く亡くなるかもしれないって聞いていたから、もしかしてと思ったんだけどね。でも、タイムトラベル自体できるか怪しいし、はいそうですか、といって、すぐに信じられるような話ではないのだけど」

「そうだったんですか…原因不明の心不全。確かに気掛かりですね。あの、もう一つ聞きたいんですけど、美代さんの妹である理沙さんについてもっと詳しく教えてもらえませんか?」

「理沙さんねぇ、私も数回しか会ったことがないんだけど、美代さんにすごく似ていたわ。一卵性の双子って言っていたからねぇ。だから美月ちゃんや詩月ちゃんと同じね」

「住所とか判らないですよね」

「実はね、住所知ってるの。美代さんが未来人だって教えてくれた時、その証拠を見せるって言ったのよ」

「その証拠ってなんですか?」

「自分たちは1996年の世界からやって来た。だから1996年に自分たちが住んでいる住所を教えてくれたのよ。あれは1970年代の頃の話だから、今から半世紀以上前の話なんだけどね」

「それで、1996年の住所っていうのは?」

 詩月が急かすように尋ねると、ゆっくりと間を保った紗代子が静かに口を開いた。

「今でも空で言えるわ。理沙さんが1996年の時点で住んでいたのは、新潟市の鳥屋野なの。だから、ここから車で三十分くらいかしら」

「紗代子さんは、その住所の場所に行ったことがありますか?」

「えぇ、1996年になり、私は住所に書かれた鳥屋野の理沙さんの家に行ったの。そしたらどうだったと思う?」

 あまりに現実離れした話であったため、美月も詩月も息を呑んで黙り込んだ。しかし、タイムトラベルは確かに可能なのだ。何しろ、自分たちが生き証人なのだから。

 美月も詩月も確実にタイムスリップしている。まだ若い時代の弘に会っているのだ。あれは夢や幻ではない。確かに現実として、弘は存在していたのだ。

 美月と詩月が黙り込んでいると、沈黙を切り裂くように紗代子が口を開いた。

「私が1996年になり、理沙さんがいるという住所に行くと、そこには確かに理沙さんがいたのよ。十四歳の中学生だったわ。変な話でしょ?だって、私が会った理沙さんは十四歳だけど、それは1968年の段階での話。だから、1996年には、中年になっているはずでしょ?でも、理沙さんは、私が知っている十四歳のままだった。だからね、私はタイムスリップを信じているの。もちろん、こんなことを言っても誰も信じてくれないはずだから墓まで持っていくつもりだったけど、あなたたちに会って気が変わったわ。信じてくれなくてもいいけど、タイムスリップは存在する。そして、恐らく美沙さんは1996年の世界から1968年の世界にやって来て、そのまま兄さんと結婚したの」

 その言葉を聞き、今度は美月が尋ねた。

「美代さんや理沙さんがタイムスリップしていたという事実を知っているのは、紗代子さんだけですか?」

 紗代子は、真剣な目つきをして答える。

「いいえ。兄さんも信じていたわ。タイムトラベルを…」


     五


夕暮れー

紗代子の家から帰宅した美月と詩月の二人は、自室で二人、話し合っていた。話す内容はもちろん、美代や理沙のことである。二人は、紗代子から理沙の自宅の住所を教えてもらっていた。だから、今度の休みにその住所に行ってみようと思っていたのである。

 1996年の段階で新潟市の鳥屋野地区に住んでいるのなら、2024年の現在でも住んでいる可能性高い。もちろん、それは確実ではないのだが…

 同時に、美月らの祖母である美代は確実に未来からやってきた。恐らく、五芒星のペンダントを使って。紗代子が美代と理沙に会い、理沙だけは数回しか会っていないというのは、きっと美代だけが過去に残り、理沙は未来に戻ったからなのだろう。と、美月は推理していた。

「理沙さん、今も鳥屋野に住んでいるかな?」

 と、詩月が不安そうな顔をしながら尋ねた。

 その問いかけに、美月は考え込むような素振りを見せた後答える。

「住んでいる可能性は高いわね。万代地区は再開発されているから、新しいマンションなどがたくさんできたけど、鳥屋野は鳥屋野潟という自然が残さされているから、古い家もたくさん立ち並んでいる。だから、理沙さんが2024年の段階でも鳥屋野に住んでいる可能性は高いわ」

「今度会いに行ってみるでしょ?」

「もちろん。理沙さんは、確実にタイムスリップをしている。美代さんと共にね。だから、この五芒星のペンダントの秘密を知っている可能性が高いわ。私たちが今するべきことは、タイムスリップの仕組みについて明らかにし、条件や制約などを正確に把握することだわ」

「そうだね。紗代子さんの話では、タイムスリップには呪いみたいなものがあるみたいだし」

「それも気になるわね。タイムスリップを繰り返すと、心不全を引き起こす可能性があるのなら、私たちは不用意にタイムスリップできない。これは私の推理なのだけど、恐らく、五芒星のペンダントでできるタイムスリップには、限界回数があるのだと思う」

「限界回数?」

「そう。例えば、合計で十回しかタイムスリップできないとか。それで、その限界回数を超えた時、心不全が起こるのかもしれない」

「やっぱり理沙さんに会いにいく必要があるね」

「えぇ、だけど気になることもあるわ。美代さんが1982年に二十八歳で亡くなっているのなら、同じくしてタイムスリップした理沙さんも亡くなっている可能性が高い」

「でも、紗代子さんは1996年に十四歳の理沙に会っているんだよ」

「1996年の時点で十四歳なら、2010年に二十八歳だから、この年に亡くなるということになる。いずれにしても、あまりに情報が少ない。会いに行って生存しているか確かめないと」

「ねぇ、美月。アタシたちも二十八歳で死んじゃうのかな?アタシ、死にたくないよ」

「それもまだ判らないわ。タイムスリップが寿命を縮めるのなら、逆に伸ばすことも可能なはずよ」

 タイムトラベルについては、まだまだ謎が多い。

 現段階では、不明な点が多いのだ。まずは理沙の生存を確かめ、会いにいく必要があるだろう。

「詩月、仮の話よ。もしも、タイムトラベルが寿命を縮めるものだとしたら、あなたはこれ以上タイムスリップはしない?」

「したくないよ。危険だよ。だって死んじゃうかもしれないんだよ。そんな危ないことしたくない」

「私たちにだけタイムスリップできるのは、恐らく理由があるからなのだと思う。タイムスリップして美代さんを救えっていう神様の啓示なのかもしれない」

「それってどういうこと?」

「まだ仮説なのだけど。タイムスリップによって縮まった寿命はタイムスリップによって伸ばすことができるかもしれないっていう意味。その鍵を理沙さんは知っているかもしれない」

 自分たちにだけ、タイムトラベルができる理由がある。

 同時に、その理由を探ることが、タイムトラベルの呪いを解く重要な鍵となっているかもしれない。美月も詩月もそう考え、理沙捜索の狼煙をあげたー

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