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追放

「フウゲツ、今日でお前このパーティを首だ」


 とある酒場の一室、パーティーメンバーがテーブルを囲んだ席で、リーダーであるイザラにそう告げられた。

 イザラは黒髪の好青年。顔が整っていいて常に女を侍らしている。


「どうしてだ?僕はかなりこのパーティーに尽くしてきたはずだが」


 この言葉に嘘偽りはない。最近よくある追放理由の隠れて貢献していました、とかそういった類の事はしていないつもりだ。

 僕は魔物を倒し、的確な指示を与えてきたはず。


「あぁ確かにお前は尽くしてるし、言うことは常に正しい。そして頭もいいから俺たちに常に利益をもたらしてくれる」

「なら、なぜ?」

「分からないの」


 パーティーメンバーの一員、セイラが聞いた。セイラはピンク髪の美少女。イザラハーレム隊の一員。


「すまないが、分からない」


少し俯きながら、僕は言った。


「…まぁいいわ。たとえ話をしましょう。これで分かるはずよ」


セイラは飲んでいたメーラを机に置き、言い始めた。


「例えば、死ぬほど絵がうまい人がいるとするでしょ。で、その人が何らかのグループに属したとする。

そしたらね、そのグループは必ずおかしくなるのよ。狂い、とでもいうのかな。何か才能を持った人が

いると、周りの人にも影響が出る。変わっていくの」


セイラは一度言葉を切った。そして


「これで分かる?」

「分からない」


セイラはため息をついた。


「あのねぇつまり——」

「つまり凄すぎるからだよ」


今まで黙っていた、アイラが口を開いた。アイラは狸顔でおっとり系の女の子。


「それ私が言おうと」

「魔術も私達よりできる、剣術だってイザラよりずっとできる」

「え、アイラ無視?」

「何をやってもフウゲツが一番。もちろんそれが悪いってわけじゃないの」

「あのー、アイラさん?」

「でもその才能は私達には手に負えない。レベル1なのに、レベル100の武器を持っているみたいなもの。扱えないよ。だから、追放。嫌いとかそういうのじゃなくて、住む世界が違う。ただそれだけの事」


 反論は、ない。もともと僕だけ馴染めていない疎外感は常にあったし、どうしてこんなことが分からないんだ、ということが幾度もあった。

 必然なのだろうと思う。


「分かった。出ていくことにしよう」


僕はみんなの方を見て言った。


「今までありがとう。なんだかんだ楽しかったように思う」


 僕は自分の荷物を手に取って酒場をでた。

 過ぎたるが及ばざるが如し、去り際誰かがボソッと言ったが、誰が言ったのか僕にはわからなかった。



 困ったな。

 首…か、自分ではそうならないよう立ち回ってきたつもりだったが、それこそ裏目に出るとは、計算外だった。

 まぁいいか。次はうまくやろう。

 それよりこれからどうするかだ。もう一度冒険者をやるか?

 ……。

 いや、流石にない。もとより冒険者に興味はなかった。金が入るからやっていただけ。


「お兄さん、浮かない顔してますニャー」


 当てもなく、道をさまよっていると、唐突にそう声がかった。

 青い髪で猫耳が生えた少女——つまり獣族だった。大きめの鞄を斜め掛けしている。


「そう、見えるか?」

「みえますにゃー結構ひどい顔してるにゃ」

「鏡を持っているか、あったら貸してほしい」

「手鏡でいいのならあるにゃ」


 猫耳少女は鞄に手を入れをごそごそと探し始める。

 そして、どうぞと渡してきた。

 僕はそれを受け取り鏡を覗き込む。

 ひどい顔だった。眉毛が八の字に曲がっていて、どこか悲壮感が漂う。淡い茶色の目も長い黄色の髪も、いつもと違いしおれている——気がする。

 僕はその時初めて気づいた。

 あのパーティが好きだった事。そして追放されて悲しかった事。

 もう、戻らないことも。


「どうしたのかにゃ」


 神妙な趣で鏡を見つめる僕を見て、猫耳少女が聞く。


「いや、なんでもない。確かに浮かない顔だったな。それと鏡ありがとう」


 僕は彼女に手鏡を返した。


「どういたしましてにゃ。あとこれどうぞにゃ」


 猫耳少女は鏡をしまい、代わりに一枚のチラシを差し出してきた。

 そこには、王族直属護衛軍募集中、金額弾む、と書かれてあった。


「これは」

「そのままにゃ。王が護衛軍を募集しているにゃ。試験に合格すればいいらしいのにゃが、それがなかなかキツくて死人が出るらしいにゃ」

「死人がでるのか!?」

「らしいにゃ。でも合格するだけでも大金が支払われるから挑戦する人は多いと聞くにゃ」

「なるほど。これはもらっておこう。いろいろすまないな」

「いえいえにゃ」


 猫耳少女が恭しく頭を下げた。


「では」


僕はそう言って去ろうとすると


「待つにゃ」


 そう声が掛かった。

 なんだろうか?チラシ代だせとでも言うのだろうか?


「どうした」

「いや、あのえっとにゃ」


 急に顔を赤らめてもじもじし始めた。


「よかったら、ご飯でもどうかにゃ」


 猫耳少女は尻尾をふりふりさせながら言う。

 不覚にもその動作が可愛いと思ってしまった。


「別にいいが、どうしてだ」

「お兄さんがカッコよかったからにゃ。それに悲しそうな顔をしていたから今なら押せばいけるかにゃと思ったにゃ」

「すごく打算的だな」

「なんとでもいうにゃ」

「チラシ配りはいいのか」

「なぜ分かったにゃ」

「見れば分かったにゃー」

「私のまねするにゃ」


 僕はそれから彼女とご飯を食べに行った。彼女が普段働いている店も教えてもらって、今度遊びに行く約束もした。

 もちそん僕が女と言うことは伏せたけれど。

 あぁそれと護衛軍試験には受けることにした。他にやることもなかったので。


 補足 護衛軍試験とは不定期に開催される試験である。また、試験内容も変則的で対策困難とされ合格する確率は3000分の1ほど。1次、2次試験があり、どちらも突破せねばいけない。

お読み頂きありがとうございます。


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