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山崎昂子②

 すでに日が没してから2時間以上の時間が経過した繁華街は、多数の電飾看板から放たれる光によって闇夜のアスファルトを照らしている。そして、週末という事もあり、路上では、行き交う人々の笑い声と喚声が響き、眠らない街はこれから本番を迎えるのであった。


〝どうして、こうなったんだ……!〟


 そして、その盛り場の一角を形成する中華バルの店内で、真嗣は目の前の光景を嘆く。


「それでね、わたしがムカつくのは、レース前は『この馬は道悪の馬場でも問題ない』とか言いながら、負けた後で『湿った馬場が合わなかった』なんて平然とほざく調教師なのよ。なんなのよ! あれは!」


「あははは。いる。いる。そういう調教師」


「負けた翌日の新聞で、初めてあのコメントを見た時には『あんた、道悪でも大丈夫だって言ってたじゃないの!』って本気で厩舎に抗議の電話を入れようと思ったわ」


 酔漢たちの騒ぎ声で活気にあふれている薄暗い店内。しかし、あかりと昂子の声量も負けてはいない。そして、あかりはジョッキに残ったビールを一気に飲み干すと、叩きつけるような勢いでテーブルに置くのであった。


「あと最高に腹が立つのは、スローペースで何の策もなく平然と後方待機して負けた挙句に『この馬向きの展開にならなかった。仕方がない』とか抜かす騎手。いやいや、乗っている馬が不向きな展開にならないように努力するのが騎手(あんた)の仕事でしょ! なに他人事のように言ってんのよ! あーもう、思い出すだけでむかっ腹が立ってきた! わたしが政治家になったら、レース後にあの手のコメントを吐く騎手は火あぶりの刑に処す法律を国会に提出するわ!」


 喫茶店であかりへの馬券指導を了承してもらい、昂子たっての希望という事もあり二人を引きあわせた真嗣。

 しかし、今ではその判断が完全な間違いだったと認識させられるのだった。


「いやー、しかし、あかりん、本当にお酒に強いねー」


「昂子ちゃんもねー」


 同じ競馬ファン。なおかつ、お互いに塩を肴に日本酒が飲めるくらいの飲んべという事もあって二人はすぐに意気統合。今も真嗣が耳をふさぎたくなるような汚い言葉で騎手や調教師に対して悪態をついている最中だ。


「それじゃあ、もう何度目か分からないけど、かんぱーい❤」


 そして、ふたりは体育会系の学生が練習後にスポーツドリンクを摂取するかのごとく、おかわりした生ビールをゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すのだった。


「シンちゃ~ん。キミはさっきから大人しいけど、ちゃんと食べてるの~?」


 すると、酒臭い息を真嗣の顔に吹きかけながら、そう尋ねてくる昂子。


「は、はい。頂いてます」


「もう。キミは本当によそよそしいんだから……。遠慮なんかしなくて好きなものをジャンジャン食べていいんだからね~。なんていったって、今日はこの人たちのおごりなんだから~」


 そう言いながら、昂子は隣のテーブルに突っ伏して酔いつぶれている二人の男性の後頭部をパンパンと叩くのだった。


 そう、彼らは真嗣が席をはずした隙に昂子とあかりをナンパ。昂子の「あーしたちと飲み比べをして勝ったら、付き合ってあげていいよ。その代わり、負けたら、ここの飲み代おごってね」という誘いに乗り、あっさりと撃沈してしまった哀れな男たちなのである。


「あしたは1000万の払い戻しを目指すぞー!」


「おー!」


 友情と契りの証としてお互いの腕を交差させて、ビールを飲み干すあかりと昂子。


〝俺は先生のためと思っていたけど、ただ単にとんでもない怪物と怪物を引きあわせてしまっただけなのかもしれない〟


 後悔のまっただなかにいる真嗣。目の前の現実に暗澹たる気分にさせられるのであった。





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