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第九十七話

 「それに、今のところ状況証拠だけで確たる証拠がないのもある。とはいえ、ほぼクロだがな」

 「・・・だから箝口令が?」

 「それもあるが、実際は他のことも含んでいる」

 「叔父上、どういう意味ですか?」

 「実はアレクがどこに亡命したのかは、知っている」

 「本当ですか?!一体どこに?」


 ファーレンハイトの目は期待で満ち溢れたが、それは一瞬のことだった。


 「だが今は言えない。」

 「え?」


 ここまでの流れでまさか教えてもらえないとは思っていなかったファーレンハイトは、拍子抜けだった。


 「悪いが、万が一のことがあるからだ。なら知らない方がいいだろう?」

 「あ・・・」 

 「お前には酷だが、自分の母親がしたことは、受け止めて欲しい。確かに年齢でいえば子供ではあるものの『竜紋』を持つ身ならわかるだろう?」


  万が一、それは実母のヨゼフィーネに知られるかもしれないということだろう。それならば、初めから知らなければ情報が漏れる心配はないということに、ファーレンハイトは納得した。


 「はい、僕は誇り高き、金の竜の血を引く者ですから」

 「それでこそだ。ちゃんと時期が来たら教えるから。」

 「わかりました。絶対ですよ!ただ一つだけ聞いていいですか?」

 「こたえられることなら」


 少しためらった後、ファーレンハイトは、一番気になっていたことを聞いた。


 「あと、そのアレクは元気なんですか?」

 「あぁ。皮肉なことにあちらのほうが幸せそうだ」

 「!そうですか、それなら良かった・・・」


 ファーレンハイトはホッとした表情を浮かべ、


 『ここにいるより、他所の地でアレクが幸せにくらしているならそれでいい』


 ファーレンハイトは本当に嬉しそうな顔をしていた。そしてラムレスは続けて、

 

 「アレクは今は他所の地で生きている。できることなら、ソッとしてやりたいと思ってるんだ」

 「はい・・・」

 「ここで幸せになれるなら、俺もそうしてやりたかったが、残念だがここではアレクの心は休まらないだろう。だから今はソッとしておいてやりたい。そういう意味も含めての箝口令だ」

 「わかりました。ただ、父上は?父上はこのことはご存知なんですか?」

 「・・・知っている。報告はしているからな」

 「そうなんですね。って、あ!」


 ファーレンハイトは、父親であるバルダザールがこの事を知っていると知って一瞬は安心したが、それは同時に自分の母であるヨゼフィーネの所業もバレているのでは、ということに気が付いた。 


 「どうした?」

 「その・・・ということは、父上は母上のしたことも知って・・いるってことですよね?」

 「無論だ」

 「!」

 「もちろん、第二夫人のしたことは到底許されるものではない。だが、それは俺からしたら兄上も同じだからな」

 「??同じとはどういうことですか?」

 「わからないか?今までアレクがぞんざいな扱いを受けていたのは、周知の事実だ。だけど兄上はそれをわかっていて黙認していたのだ。知っていて見過ごしていた。だから同じだというんだよ」

 「!!た、確かにそうですよね」


 ファーレンハイトは前から不思議に思っていたのだ。アレクが虐げられているのに、父上はなぜ何もいわないのかと。もしかしたら知らないのか?とも思っていたのだが、それはラムレスの言葉によって、そうではなかったことがはっきりとしてしまったのだ。


 「以上だ。他に何か質問はあるか?」

 「あの・・・このことではないんですが、聞いてもいいですか?」

 「いいぞ。」

 「・・・叔父上は皇帝になりたいと思ったことはないんですか?」

 「ないな」


 ファーレンハイトの問いにラムレスは即答だった。


 「迷いがないんですね」

 「ふふ、俺は子供の頃からずっと兄上をサポートするっと決めていたからだよ。だから迷いはなかった」 


 王弟であるラムレスも当然のことながら、王位継承権を持つ身ではあったが、甥っ子をさしおいて、自分が皇帝になる気なぞさらさらなかった。本音をいえば、外交という仕事が性に合っており、諸外国を回ることは、ラムレス自身楽しかったのもあった。そしてその見聞きしたことを国の役に立てるようにと考えることを生きがいに感じていたからだ。


 「いいですね。そういうの。僕もアレクとはそういう関係になりたかったです」

 「・・・そうだな」

 「では、そろそろお暇させていただきます。また何かわかったら教えてくださいね」

 「あぁ」

 

 そしてファーレンハイトはラムレスの部屋から出て行った。去っていくファーレンハイトの背中を見て、ラムレスはボソッと呟いた。


 「本当に・・・息子は王に相応しい器を持っているのに、どうして母親はあぁなんだろうな」

 

 これはラムレスだけではなく、他の者も思うことだった。


 この頃はまだファーレンハイトは、皇太子とはまだ確立していなかった。とはいえ、それはそう遠くないことだった。


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