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第九十五話

 あれから、五年後_____



 

 リンデルベルク帝国の王宮には、火の手が上がっていた。

 そして王宮の謁見の間で、アレクはレイリアと対峙していた。





 「アレク・・・・・」


 憐れむような眼でレイリアはアレクを見つめていた。


 「がっあぁああああああ!!」


 アレクの姿をしたものは、苦しんでいるようだった。

 辛うじて顔にアレクだったころの面影はあるものの、身体全体が人間とかけ離れたものになっていた。顔は頬辺りまで金の鱗が侵食しており、身体に至っては大部分はすべて金の鱗で被われて、腕は人間の形状と異なり鋭い爪があった。そして背中には蝙蝠のような大きな羽。大きな爬虫類のような尻尾も見えた。そして頭には4本の角が生えていた。


 アレクは、完全ではないものの、竜化していたのだ。

 意識もアレクのそれではなく、別のものになっていた。


 「人間如きがぁああああ!」


 威嚇したかと思えば、途端に泣きそうな顔になり、


 「リ・・アねぇさん、どうしてこ・・こに?いや・・だ、見ないで。リアねぇさん俺を見ないで!!」


 その悲痛な声は、アレクのものだった。

 

 『意識がアレクだったり、アレクではないものだったりと、入れ替わってるのね。ということは、まだアレクは完璧に乗っ取られているわけではない!』

    

 レイリアはそう決断すると、ずいっと前にでた。

   

 「アレク、私前に言ったよね?幸せにならないのなら、行かせないって。」

 「リ・・・アねぇ・・さん」

 「今のあんたはちっとも幸せそうじゃない、だから・・・」


 レイリアはアレクに向かって、手を伸ばし差し出した。


 「アレク、私と帰ろう?サザの森へ」



 

 アレクの異形の姿、そしてレイリアがなぜリンデルベルク帝国にいるのか?話は数ヶ月前に遡る。




 五年後、

 レイリアは二十四歳、

 アレクは十九歳になっていた。



 あれから、レイリアは相も変わらずサザの街を拠点に生活しており、アレクはリンデルベルク帝国で、兄であるファーレンハイトを助けるために、王族に必要な知識を学びながら公務をしていた。そして時折ヨゼフィーネからの嫌味を受けながら。ただしそんなヨゼフィーネに対し、必ず諌める声があった。兄のファーレンハイトと叔父であるラムレスからだ。

 

 「母上、いい加減にしてください!」

 「ど、どうしてよ!私は貴方の為を思ってのことなのよ?」


 それを聞いたファーレンハイトはため息交じりに、髪をかき上げ、


 「母上、同じことを何回も何回も言わせないでください。いつも言っているでしょう?アレクはよくやってくれています」


  ベッドに伏しているファーレンハイトの傍で控えているアレクに対して、ヨゼフィーネは指差ししていつものように罵っていた。


 「ファーレンハイト、貴方は甘すぎる!アレはどうせ貴方の後釜を狙ってるに決まっているわ!聞き分けがいい振りをして貴方の隙を伺ってるのよ!騙されちゃ駄目よ!私は貴方の為にこうして出しゃばっているのよ!」

 「別に頼んでいません・・・」


 この一連のやりとりは、もはや王宮では当たり前になっていた。


 「兄上、俺は気にしていませんから」


  ヨゼフィーネがキッと睨むも、当のアレクは涼しい顔で、ヨゼフィーネの言葉を聞き流していた。


 「ほんっとうに小憎たらしい!」


 そう言って、ふんっと踵を返し、ヨゼフィーネはファーレンハイトの寝室から出て行った。


 「我が母親ながら・・・」


 はぁーと大きなため息をついたファーレンハイトにアレクは慰めの言葉をかけた。


 「兄上がそうやって庇ってくれているので、本当に大丈夫です」

 「本当に・・・アレクお前はよくできた弟だよ」


 アレクは十九歳になり、レイリア達と別れてから、五年が経った。ちょうど成長期だったこともあり、アレクの身体はあの頃から身長も伸び、筋肉もかなりついていた。顔つきも以前より精悍さが増した美丈夫となっていた。


 ファーレンハイトは、アレクと同じ黒髪に母親ヨゼフィーネ譲りの緑の目をした甘いマスクの優し気な雰囲気をまとった男だった。小さな頃から文武両道に優れていると周りからの評価も高かったのだが、今はとある病のせいで、一日の半分をベッドで過ごすようになっていた。腹違いの兄であるファーレンハイトは、ヨゼフィーネのアレクに対する態度にずっとアレクに対して罪悪感があったのだ。


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