第八十八話
それは、唐突だった。
だけど、嫌な予感もあった。その予感が当たったことに、当然のことだがレイリアはちっともうれしくなかった。
結局、レイリアは不穏なものを感じてはいたが、何かはわからないままだった。そして依頼を達成したので、レイリア一行はサザの街へ帰還することとなった。
ミルナス女王をはじめ、皆が転移門まで見送りに来てくれた。リョクはちなみに角がある人型の男の子の姿になっている。
「今度は仕事ではなく、遊びにくるがいいぞ。」
「そうよね!また絶対に来てください!お待ちしていますね!」
「本当にほんっとうにこの度は、ありがとうございました!」
『ま、まぁルネ様が遊びに来ていいって言うんなら、その時は構ってあげてもいいわ!』
『私は楽しいことならなんでもー』
『同じく―』
ミルナスは気軽に、遊びにきたらいいといい、レベッカは本当にその日がくることを楽しみにしているようだった。そしてアントニーは何度も何度も、お礼をレイリア達に言っていた。妖精達は相変わらずだった。
「世話になったな。」
「リョクも元気でね!」
別れの挨拶の時、リョクは躊躇いがちにアレクに向かって手招きをし、真剣な表情で話し出した。
「・・・アレク、今は以前とは比べられないほどの竜の力を感じるだろう?」
「あぁ、力がみなぎってるのがよくわかるよ。」
そういうとアレクはギュッと握りこぶしを作った。
「・・・・この間言いそびれしまったことなのだが・・・今回は私のせいで、強制的に力を解放してしまっただろう?私ににとっては、大いに助かったのだが、それが君のためになったのかは・・・・」
「どういう意味だ?」
アレクはリョクの言わんとすることがよくわからなかった。リョクは俯き加減だった顔を上げ、真っ直ぐにアレクの目を見て言った。
「・・・アレク、もし力を持て余した時は、私は必ず駆けつける。」
「持て余す・・って?」
「そのままの意味だ。過剰な力を制御できるにこしたことはないが、もしできなかったときは、私が助けよう。とはいえ、私も今は子竜だからな。その日がこなければいいのだが・・・」
「・・・そっか。そうだな。無理やり力を増幅させてしまったからな。」
「だからアレク、無理はしないでくれ。普通にしていれば問題はないはずだ。」
「わかった。リョク忠告ありがとうな。・・・あとさ、聞いていい?」
「なんだ?」
アレクはチラッとレイリアと話し込んでいるミルナスを見て、
「ミルナス女王には、その過去の・・・転生前の記憶はないんだろ?それでも側にいるのか?」
アレクからそんな質問が来るとは思わなかったので、リョクは目を丸くした。
「・・・そうだな。もしかしたら、彼女は私とは違う者と番うかもしれない。」
「そ、そんなの辛くはないのか?」
アレクも考えたことがあった。レイリアの隣に自分じゃない男が横に立つなど、到底許せるものではなかった。
「いいんだ。彼女の幸せを見届けたらそれでいい。だがもちろん自分を見てもらうように、努力はするつもりだ。何もしないで傍観するなど性に合わないからな。積極的にいかせてもらうさ。」
そういうと、リョクはニヤリと笑ったが、子供姿のその表情はとても大人びていた。
そんなやりとりがアレクとリョクの間であったっことを、レイリアは他の人と別れの言葉を交わしていたので、知らなかった。
そして、サザの街に帰還後、いつもの生活に戻っていた。
ザッシュ!!!
アレクが魔獣を一太刀で絶命させた。
今日も魔獣討伐の依頼で、レイリアとアレクはタッグを組んで取り組んでいた。違ったのは、アレクの技量だった。
「ほぇーアレク強くなったわねぇ。」
「うん、自分でもわかるよ。身体能力が上がったって。」
剣を鞘にしまい、アレクは自身の両手の手のひらを見ていた。
以前は少し手を焼いていた魔獣も今や一撃で難なく仕留めることができるようになっていた。以前よりも力がつき、ジャンプ力も、そして魔力も向上していることに、アレク自身も実感していた。
「手合わせしたら、私もう負けちゃいそうね。」
「・・・そうかもしれないね。」
「ふふ~ん言ったわね?ならやる?」
レイリアが臨戦態勢を取ると、アレクは一瞬は構えたものの、すぐに姿勢をくずした。
「アレク?」
「いや、やめとく。」
「えーなんでよ!」
レイリアはアレクがどのくらい強くなったのか、試したかった。だから久々の手合わせにワクワクしていたのに、拍子抜けである。
「なんていうか、実力じゃないなーって。」
「あー・・・」
アレクの言うことに、レイリアはその気持ちがわからないでもなかった。すごい特訓をした訳ではなく、リョクの助けによって、金の竜の力が引き出された結果だ。レイリア自身も生まれながらに『祝福』を持っているので、アレクの言わんとすることに同情を禁じ得なかった。
そして、それから数日後、アレクはとんでもないことをレイリアに告げた。
「・・・俺、国に帰ろうと思う。」
「はぁ?!」
レイリアはアレクの口からそんな言葉がでてきたことに、驚きを隠せなかった。




