第八十七話
「ふと思ったんだけど、獣人と結婚となったらどうなるのかしらね?」
「け、結婚?!!」
街を散策中に、レイリアから結婚という言葉を聞いて、アレクはもろに動揺してしまい、声が上ずってしまった。
「?なんでそんなに驚いてるの?」
「い、いや、って、もしかしてリアねぇさんは獣人と結婚したいのか?」
アレクの焦った様子に、レイリアは不思議に思いつつも、少し考え、
「んーそうねーしたいっていうよりは、そういうことも有り得るかなとは思ってるわ。」
「ど、どういうこと?」
「好きになったら、種族とか関係ないでしょってこと。だから同じ種族かもしれないし、獣人かもしれないし、エルフかもしれないじゃない?」
そういう意味かと安堵しつつ、アレクは気になることを聞いてみた。
「・・・もしかしてリアねぇさんは、結婚したいとか、考えてるの?」
「うーん。今のところは考えてないわねぇ。今はじっちゃんもアレクもいるせいか、今はそれがすごく楽しくって。」
レイリアが笑顔でそういうと、アレクはドキッとした。だけど、そのセリフは自分が異性として意識されていないことに、歯痒い思いも同時に心にくすぶっていた。
「じゃ、獣人と結婚したらどうなる、っていうのはどういう意味なんだ?」
「あぁ、単純にね、子供はどうなるのかなって思ったのよ。両方の特徴を何かしら受け継ぐのか、それとも片方だけの性質を受け継ぐのかな、とかね。」
「あぁそういうことか。」
「ハーフの人は会ったことないからね。」
レイリアの言葉に安堵はしたものの、アレクの胸中は少し複雑だった。
街の中に大きな噴水がある場所に出た。噴水は噴出する箇所が三カ所あり、その三カ所から噴出する様はまるで連携をとってるかのように、形を変えて水が放出されていた。なかなかに迫力がある水の曲芸は、王都でもちょっとした観光スポットになっていた。
「わぁ〜綺麗ね。ちょっとここで休憩しようか。」
「リアねぇさん、あっちに飲み物売ってるけど、いる?」
「いいわね!まかせていい?」
「もちろん。じゃ行ってくる。」
アレクは噴水から少しだけ離れたところへ飲み物を買いに行った。レイリアは、噴水の端に座り、行き交う人々を見ていた。噴水の周りにはカップルや家族連れがいるのが目立った。
『観光スポットらしいから、人も多いのね。』
などと、レイリアは呑気に考えていた。
アレクは、飲み物を買いに出店の店頭へ並ぼうとしていた。
『ここしか店がないせいか、ちょっと混んでるなー』
と、考えていたところへ、スッとアレクの前を遮るように、数人の人影が立ちはだかった。
「?!!」
『アレク遅いなー?混んでるのかしら??そろそろ様子を見に言った方がいいかしら?』
思ってよりもアレクが戻ってこないので、レイリアがそんなことを思っていた時、
「リアねぇさんごめん!遅くなった。」
アレクが両手に飲み物を持って、戻ってきた。
「おかえりー遅かったから、道に迷ったのかと思って迎えにいこうと思ったわよ。」
「あ、あぁ。それはごめん・・・」
レイリアが冗談ぽく言ったが、アレクの反応はなんだかぎこちなかった。アレクの様子がおかしことに、レイリアはすぐに気が付き、
「アレク??」
「あ、ええと、ほら。これ。」
そう言って、飲み物をレイリアに渡そうとしたが、レイリアの手がアレクに触れた途端、アレクはビクッとしてレイリアに渡す前に、落としてしまった。しかしレイリアはすかさず、地面に落ちる前に飲み物をキャッチした。
「ご、ごめん!!」
「それはいいんだけど・・・アレク?何かあったの?」
「いや、ただ混んでいただけだ・・・」
レイリアはアレクをジッと見つめていた。アレクは目を合わせない。
『・・・さっきからアレクなにか変よね?だけど、今はさっきよりも明らかに変っていうのはわかる!絶対に飲み物を買いに行った短時間の間に何かがあったはず。だけど、それをアレクが話してくれないというとこは・・・』
大抵のことならば、今までなら直ぐに話していたアレクが、明らかにごまかそうとしている様子にレイリアは、不穏なものを感じていた。




