第八十五話
イ・ベルディ獣王国の謁見の間にて____
「本当に、其方たちには世話になった。感謝する。」
そういうと、王座に座っていたミルナスは頭を下げた。
「あの、本当にご迷惑をおかけしちゃってすみませんでした。」
ミルナスの横に座っていたレベッカも慌てて頭を下げてした。
ミルナスとレベッカの前には、ヴァン、レイリアとアレク、そして小竜のリョクがいた。
「転移門を使ったとはいえ、遠路はるばると其方たちが来てくれなければ、娘はずっと目を覚まさないままだったかもしれない。そして、」
ミルナスは言葉を一区切り区切ったあと、謁見の間の横に他の近衛騎士に混じって整列していたアントニーに目を向けた。
「アントニー」
「はっ!」
アントニーは名を呼ばれ、前に出て、ミルナスの前で敬礼をした。
「其方も、よくぞ占いの啓示を元に、ヴァン殿一行を探し連れてきてくれた。礼をいう。」
「女王、勿体ないお言葉です!自分は任務を遂行したまでです。」
「相変わらず、真面目じゃのぅ。」
その言葉とは裏腹にミルナスの顔には笑みがあった。
「ア、アントニー、ありがとうね。」
「王女、自分は当然のことをしたまでです。」
レベッカは少し頬を赤らめて、アントニーに感謝を伝えたが、その顔をミルナスは見逃さなかった。
「ほぅ・・・」
その様子にレイリアも気付いたが、当然今はこういう場なので口には出さず、にやけ顔にとどまった。その様子をアレクは「??」という気持ちでレイリアを見ていた。
「そしてリョク殿・・・本当に助かった。占いの啓示の通り、竜の力が必要であったが、リョク殿がいなければ、解決できなかった。感謝する。」
そういうと、小竜の姿である、リョクに頭を下げた。
「ミルナスよ、頭をあげてくれ。」
「「「「「おぉ!」」」」」
リョクがそういった瞬間、緑色の光が謁見の間を照らした。そして、光が消えた瞬間、そこにいたのは、夢の中でのリョクの姿。人化した子供の姿のリョクであった。皆が驚きの中、レイリアが口を開いた。
「え?リョク・・・なの?」
レイリアの言葉に、子供の姿のリョクはコクンと頷いた。
「こちらの姿の方がドラゴンの姿より親しみがあるかと思ってな。」
リョクは子供の姿でニヤリと笑った。
「夢の中であったドラゴン様ですね。その節はありがとうございました。」
レベッカは夢の中で、人化したリョクに会っていたので、感謝を伝えた。
「うむ。だが私も私だけの力だけでは、夢の中にはいけなかった。アレクの協力もしかり、そしてここまで連れてきてくれた縁があったからこそだ。私からも礼をいう。」
そういうと、リョクはレイリア達に頭を下げた。
「う、ううん!私は今回あんまりお役に立ててなかったし・・・」
「俺なんか、同行しただけだしな!」
レイリアは恐縮し、ヴァンは笑っていた。
そんな和やかな雰囲気になった中、ミルナスは切り出した。
「して、此度のことは依頼の上での報酬は勿論のことだが、別途に褒美を設けたいと思っている。」
「褒美・・・ですか?」
「何がいい?もちろん限度はあるが、ある程度は融通は聞くぞ?」
そうミルナスから言われて、レイリア達は考えたが、
「うーん・・・現段階では特にないですね?アレクは何かある?」
「いや、俺も特には・・・・」
「お前らは欲がないなぁ」
「そう言うじっちゃんはあるの?」
「ないな!」
「人のこと言えないじゃない!」
ヴァンがきっぱりというと、その場はどっと湧いた。
「ふふ、其方らは欲がないのじゃな。リョク殿は何かないのかな?ドラゴン様なら、ご自身で叶えられそうではあるが。」
「私は・・・」
リョクは言いかけてミルナスをジッとみた。そして再び口を開いた。
「私は、貴方の傍にいたい。」
「え?」
「私はこの地にとどまり、ミルナス、貴方の傍にいたい。」
リョクの言葉に、その場にいた者達がどよめいた。
「ドラゴン様が我が国に移住してくださると?」
ミルナスは驚き、その場にいる者達も口々に、
「ドラゴン様が我が国に居留するということか?」
「この国は安泰ではないか?!」
「戦力も強化できる!」
グリーンドラゴンたるリョクがイ・ベルディ獣王国に居住するということに、皆が好意的であった。そんな中、レイリア達はせつない気持ちになっていた。
『リョク・・・たとえ覚えてもらっていなくても、ルネさんだったミルナス女王の傍にいたいんだね・・・』
リョクは、真剣な眼差しをミルナスに向け、またミルナスもその視線を受け止めていた。




