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第八十二話

 「な、なにを」


 まさか断られると思っていなかっただけに、ミルナスは驚き、すぐさまリョクに確認した。


 「や、やはり血縁者でないとダメなのか?」

 

 ミルナスは泣きそうになっていたが、リョクは首を横に向き、


 「違う、そんなことはない。あとはミルナス、お前が説得するしかない。こればっかりは私は変わってやることはできない。言っただろう?親子の絆が必要だと。」

 「そうだったな・・・」


 ミルナスはレベッカに向き合い、説得を始めた。 


 「レベッカここは確かに楽しいだろう。だがここは本当の世界ではない。夢の中だ。だから妾もここに居続けることはできないのじゃ。」

 「え・・・お母様は一緒にいられないの?」

 

 ミルナスはこくんと頷いた。


 「だけど・・・ここにいれば、嫌なことを言われないの!」

 「嫌なこと?とはどういうことだ?」

 「それは・・・」


 一瞬レベッカは躊躇ったが、オレンジの髪の妖精のルルが代わりに答えた。


 「レベッカはね、宮殿で嫌な目にあったの。トラ族じゃないくせにとか、本当の王女じゃないくせにとか、運がよかっただけだろ、とか。意地悪されてたんだから!」


 全く想定していなかったことを妖精たちに言われ、ミルナスは驚きを隠せなかった。まさか自分の目が届いていなかったところで、レベッカがそんな目に合っていたとは夢にも思ってみなかったからだ。

 

 「そ、そんなことが?」

 『そうよ!だから私達がここに来させて、レベッカを嫌なことから遠ざけてたのよ!感謝してほしいくらいだわ!』


 妖精のペルはプンプンと怒っていた。

 

 「レベッカ・・・どうして言ってくれなかったのだ?」


 諭すようにミルナスがレベッカに問うと、


 「お母様に迷惑かけたくなかったの。ただでさえ、お母さまは女王になって忙しくしていたから、心配かけちゃいけないって思って・・・だから自分が我慢すればいいって・・・」

 「そうだったのか・・・」

 

レベッカの目には涙が溢れていた。それをミルナスはスッと指ですくい、


 「レベッカ、妾の愛しい娘。確かにここから出たらまたそういう目に合うかもしれん。」

 『だったら!』


 ペルは横から口をだしたが、ミルナスが妖精たちを見回し、


 「其方らは、妾の娘をレベッカを救おうとしてくれたのだな、礼を言う」

 『え・・と・・・』

 『まぁ・・・ね』


 そう言って、レベッカは妖精たちに頭を下げた。妖精たちはまさか礼を言われると思わなかったので、どう反応したらいいのか、困惑していた。だがその時、ペルはあることに気が付いた。

 

 『え・・・そんな!嘘?!でも?!』

 

 ペルはミルナスをジッと見つめ、見間違いでないか何度も自身の目をこすった。


 『ペルちゃんどうしたの?』

 『?』

 

 ペルが明らかに動揺していたので、ランとルルは不思議に思っていた。しかしリョクにはペルそうなった理由をわかっていた。


 「やはりわかるのだな。同じ水の属性だから」

 『ルネ様ーーー!!!』


 ペルはそう叫ぶと、ミルナスに抱き着いていた。ミルナスは突然妖精のペルに抱きしめられたものの、ペルがわんわん泣いていたので、振りほどくことはしなかった。


 「るね?・・・そういえばリョク殿も妾のことをそう呼んでいたな。」

 

 ミルナスの言葉にリョクは少し寂しそうな笑顔になっていた。


 『うそ!うそ!こんなところで会えるなんて!ルネさまルネさま!!』


 困惑していたミルナスだったが、まずは本題をどうにかしないとと思い直し、ペルに話しかけた。  


 「えーと、すまないが私は娘を取り戻しに来た。」

 『娘?ルネ様は・・・処女ですよね?子供って、どういうことですか?』 

 「なっ!!お、お主は何を言っておる!!」


 ミルナスはまさか自分が処女であることをこんなところでバラされるとは思わず、顔を真っ赤にして、慌てていた。それを見たリョクはボソッとつぶやいた。


 「かわいい・・・」

 「!!リョク殿!お、大人を揶揄うでない!」


と言ったが、リョクは呆れたように溜息をつき、


 「・・・今の見た目に惑わされているようだが、私は何百年生きているのだよ。」

 「あ・・・」


 リョクは今は子供の姿なので、ミルナスはドラゴンだったことを一瞬忘れうっかり子供扱いしてしまった。

 

 「まぁそんなことはいい。それよりも娘御のことだ。」 

 「そ、そうであったな!」


 ペルの発言にペースを乱されてしまったが、再度向きなおし、


 「仕切り直しだ。確かにお主の言うとおりで妾とレベッカは血の繋がりはない。だが・・・」


 ミルナスは視線をレベッカに移し、思い出していた。小さなレベッカが捨てられて路頭に迷って泣いているところを、自分が声をかけ、そしてずっと服の裾を引っ張って付いてきたことを。


 「それでも、私の大事な、大事な娘なのだ。血の繋がりなど関係ない。」

 「・・・・」


 ペルは真剣にミルナスの言葉を聞いていた。そして、ペルは先ほどまでの勢いはなくなり、ミルナスの言葉を大人しく受け入れていた。


 「・・・わかりました。ルネ様がそう仰るなら、レベッカを夢の世界から覚まさせます。だけど、お願いがあります。」

 「うむ、申してみよ」

 「さっきも言ったけど、レベッカは謂れのない言葉を受け続けていたの。だから守ってあげて・・・ほしいです。」

 「無論だ。むしろ今まで気付いてなくて、すまなかった。」

 「お母様!」

 「レベッカ・・・・辛い目に合わせてしまってすまなかった。」


 レベッカは目に涙を浮かべたままミルナスに抱き着き、ミルナスもレベッカを抱きしめた。


 「うむ、これでミッションクリアだな。」


  リョクはミルナスの嬉しそうな顔を見て、本当に良かったと心から思っていた。


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