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第七十八話

 アントニーは続けざま、こう言った。


 「万が一、女王に何かあったらどうするんですか?!」

 「まーそりゃー女王様だもんな。」

 

 ヴァンの言うとおりアントニーの言うことは至極当然で、夢の中に行くなど未知数で何が起こるかわからない。ましてやミルネスはイ・ベルディ獣王国を統べる女王なのだから。

 

 「女王の御身に危険が及ぶかもしれないのに、家臣として看過できません!もし、可能ならば、自分に行かせてください!」


 アントニーの志願に、ミルネスは目をぱちくりさせて驚いていた。だが、少し困った顔で、アントニーに向き合った。


 「・・・アントニーお前の言うことは一理ある。」

 「女王・・・・」

 「だが、妾は女王になる前からレベッカとは親子だったのだ。女王になったとはいえ、それは覆らないし、もしこの件で自分の命を落としたとしても、妾に後悔はない。それにリョク殿も言っていただろう。親子の絆が必要だと。ならばアントニーではだめなのだ。」

 「で、ですが、!」


 尚も食い下がるアントニーに、ミルネスは溜息を付いて言った。


 「それに、もともとこの国イ・ベルディ獣王国は力のある者が王になるのだ。妾がこれで倒れてしまうのなら、それまでのこと。また強者が統べればいいことよ。」

 「!」


 ミルネスの言葉にアントニーはショックだった。なぜなら彼は心からミルネスを女王として崇拝していたからだ。


 「た、確かに仰る通りですが、貴方様は力が強いだけでなく、公正公平にまつりごとも行われ、まさに賢王の名に相応しいお方ではありませんか!貴方様以上の方が次に現われるとは思えません!」


 アントニーはミルネスに心酔していた。だから、未知数の夢の中に行くなど、許せなかったし、変われるものなら自分が出向き、その後で自分が万が一のことになったとしても構わなかったのだ。

 ミルネスは少し困った顔をして、アントニーの目をジッと見つめた。


 「アントニー。気持ちは嬉しく思うぞ。だがわかってくれ。妾には娘がレベッカが大事なのだ。」

 「!」


 アントニーはミルネスの気持ちがわかっていた。わかっていても言わずにはいられなかったのだ。そしてしばしの沈黙の痕、アントニーは口を開いた。


 「・・・・・すみません引き留めてしまって。女王、無事に帰ってきてくださいね。」

 「うむ、できれば期待には応えよう。」

 「アントニーとやら、心配するな。ミルネスに危険が及んだ時は私が全力で守る。だから安心して待っているがいい。」

 「リョク様、本当にですか?!」


 まさかこの小さな竜にそんなことを言ってもらえるとは思わず、アントニーは安堵した。


 「もちろんだ。なにがあろうとも、私がミルネスを傷つけることなど絶対にさせない。」


 この言葉に、レイリア達は切なくなっていた。たとえ自分を思い出してもらっていなくとも、ミルネスを守ろうとしているリョクの気持ちが痛いほどわかったからだ。

 

 「さ、時間がおしい。ミルナスよ。」

 「はい。」


 リョクの指示で、ミルナスはベッドで寝ているレベッカの横に、同じように仰向けの姿勢になった。


 「では、始める。」


 リョクは右の手でミルネスの頭部に触れ、左の手でレベッカの頭部に触れていた。すると、リョクの身体から緑色のオーラが発生し、それは横たわっているミルネスとレベッカも包み込んだ。


 ミルネスは、そして意識を手放した。


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