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第七十三話

 『なんだこれは?!』


 金の竜は得体のしれない玉を口の中に放り込まれたこで焦っていた。割れた玉は紫色の液体で、甘ったるい匂いを放ち、そしてその液体は甘かった。痛みなど苦痛を感じることは全くなかったが、その液体を思わず口に含んだことで自身の精神に何かが干渉し、変化が起きていることは金の竜自身にもわかっていた。

 そしてフィンは強張った顔をしながらも必死で金の竜の目を見つめていた。

 

 『きっさまぁああ!!一体我に何を?!!』


 言うのと同時に金の竜はフィンを襲おうと、鋭い爪を振りかざしたが、その動きはフィンの直前で止まってしまった。 



 「一体なにが起こってるんだ?」

 『・・・・・思い出してもムカムカするが、見ていればわかる。』 

  

 金の竜の今の姿は相変わらず見えないが、口調はぶっきらぼうにそう言うので、アレクは事の成り行きを見つめていた。

 そして・・・

 

 




 「・・・・・えーと・・・」


 アレクは目の前の光景に、なんともコメントしずらくて、言葉を言いあぐねていた。そして金の竜は弁明し、そして思い出したのか憤慨していた。


 『アレは、我だが我ではない!本当に卑劣な手を使いおって!!!』

 

 目の前の光景は、アレクの思いも寄らぬものだった。

 先ほどまで本性である金の竜であったが、今はまた人型の美女バージョンであるリリアナになっており、その様子は・・・


 なんと、リリアナがフィンに迫っていたのだ。

 リリアナはフィンの身体に覆い被さるように、そしてフィンを見つめる目はうっとりとしていた。


 「私の力が必要なのだろう?遠慮するな。私の力をフィンお前の為に使ってやろう。」

 「リリアナ・・・」 


 フィンはリリアナの様子を見て、急な態度の変化に驚きつつも安堵した様子だった。

 アレクはその様子に気が付き、  

    

 「もしかして、『魅了』の魔法を使った?・・・いや玉が割れて中身が出てから効果が出たようだし、それ系の魔法薬かな?」 

 『忌々しいが、その通りだ。我を懐柔するために、禁断の魔法を使ってきたのだ。それがフィンが投げてきた玉だ。あの中に『魅了』の魔法薬が入っていたのだろう。我は通常であれば『魅了』の魔法など効かないが、禁呪で作成した魔法薬なら話は別だからな。禁呪の場合は材料に希少の価値があるものや、もしくは非合法なものが素材として使われるからな。まぁこれも後ほど知ったことだがな・・・』


 金の竜は自身に起こったことを客観的に話していた。


 「もしかして、それからずっと言いなりになっていた?」

 『その通りだ。魔法薬の効力はなかなか途切れなかったからな。というか、それからもずっと飲まされていたのだ。』

 「えぇ?!」


 アレクと話している間に、場所はまた変わり、フィンとリリアナは、ロイスナー王国の宮殿のある部屋にいた。そこでは、リリアナがフィンから飲み物を渡されていた。


 「リリアナ、さっこれを・・・」 

 「ありがとうフィン。これを飲まないとなんだか落ち着かないの」


 魅了対象の相手に飲めと言われれば断れるはずもなく、むしろ進んで飲んでいる様子から中毒性も備わっていることが伺えた。


 「中毒性があったのか・・・」

 『そうだ。だから我の意識はどこかボーっとしてしていてな。請われるまま、力を行使していたのだ。』


 アレクはショックだった。リンデルベルク帝国が語り継がれていた物語の裏が実際には、策謀にまみれていたことに。そして場面はいろいろと変わっていった。金の竜たるリリアナはフィンの命令で、隣国を金の竜の力で壊滅させる様子もあった。フィンは初めこそは禁呪を用いた魔法薬を使った後ろめたさがあったせいで、遠慮がちであったが、それもリリアナが自分の命令で尽く隣国を制圧していく様を見ていると、フィンは明らかに変わっていった。初めはこそは国を思う立派な王子だと思っていたが、段々と竜の力に溺れていき、尊大な態度を取るように変わってしまったからだ。

 

 「フィン王子、人が変わってる・・・」

 『人は過ぎたる力を持つと過信するものよ。そしてそれが人外の力ならなおさらだったのだろう。だが・・・』

 「だが?」

 『我が竜なのは伊達ではない。当たり前だが、同じ魔法薬が延々と効いてる訳ではなくてな・・・』


そう金の竜がいうと、また場面が変わった。


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