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第七十二話

 「人よ、名はなんという。」

 「自己紹介が遅れてすまない。僕はフィン・ロイスナー。ロイスナー王国の王子だ。」

 「ほう、王子が自らここまで来たと・・・私は竜の領域の門番のリリアナだ。」

 「リリアナ!、頼む、どうか竜に取り次いで欲しいんだ!」


 フィンは片膝をついて、リリアナに懇願した。 


 「どうして、竜の力が必要なのだ?」

 「恥ずかしながら我が国、ロイスナー王国は隣国との争いでかなり不利な状況だ。私は王子として、民を守る義務がある。だからどうしても、力が必要なんだ。」

 「・・・人の争いに竜の力を借りると?」 

 「そうだ。先ほども言った通り、我が国はかなり隣国に押されている。このままいけば、国が滅亡してしまうかもしれない。いや、それよりももし負けてしまえば植民地となり、民が奴隷にされてしまう!そんなのは耐えられない。だからどうか、竜に合わせてくれ!」


 フィンは必死で竜に会うための説明をした。そしてしばしリリアナは考えこみ、顔を上げた。


 「・・・話はわかった。私は止めたからな。あとどうなるかは、自己責任だ。門をくぐる許可をしよう。」

 

 すると、リリアナの言葉に反応したかのように、岩の門が一瞬光った。


 「入るがいい。先ほども言ったが竜がどうでるかは、フィンお前次第だ。」

 「ありがとう!恩にきる。リリアナ!」


 フィンはリリアナに会釈をし、そのまま岩の門をくぐって奥に向かった。


 そしてアレクの目の前はまた真っ白に光って、先ほどとは違う場所に出た。何となく検討はついていたが、はっきりするためにも、アレクは金の竜に尋ねた。


 「ここは?」

 『ここは竜の領域の最深部だ。金の竜たる私との会合の時だな。』

 

 アレクが今いる場所は、竜の領域の最深部だった。最深部とはいうものの、そこは霧に覆われた木々で囲まれており、奥は行き止まりのように崖がそびえ立っていた。そしてその崖の前には、リリアナが立っていた。

 

 「え?!リリアナ?」


 フィンは先ほど門で会ったリリアナが最深部に居たことで驚いていた。


 「フィン、我の幻影を潜り抜けて、ここまで辿り着くとはな。そこは褒めてやろう。だが、ここからはそうはいかん。」


 リリアナは威圧的にフィンに言い放った。

 

 その様子を見ていたアレクが物語との相違に気が付いた。


 「あれ?物語では一緒に行動してるって・・・?」

 「ふん、都合よく脚色しただけだろう。我がフィンと会ったのは竜の領域の門と、ここの最深部だけだ。一緒に行動などしておらんわ。」

 「そういうことか・・・」


 アレクは不思議に思っていた。ならどこでフィンとリリアナは愛し合うようになったのだろうと。


 「リ、リリアナ、一体どういうことだ?」


 フィンは驚いていた。門のところで会ったリリアナが、最深部にいたことに。


 「お前の会いたがっていた竜は我だ。そしてそれは最初で最後となる!」


 リリアナがそう言うと、リリアナ自身が光そして身体は見る見るうちに、金の竜へと変化した。


 『人の分際で、我の力を貸して欲しいだと?!笑止千万!片腹痛いわ!お前はここで、志半ばで死ぬのだ!!』



 金の竜は、フィンに牙を向け、そしてブレスを吐くために口を大きく開けた。しかしフィンはそれを見逃さなかった。


 「いまだ!!」

 『?!』


 フィンは懐に隠し持っていた手のひらに収まるほどの紫色をした玉を、金の竜の口の中に放り投げたのだ。そしてそれは、金の竜の口の中で割れた。


 「まさか、これをずっと狙って?」

 

 アレクはわかった。フィンが思い詰めた顔をしていたのは、この時をずっと狙っていたということに。だからあんな顔をしていたのだと、気が付いたのだ。


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