第六十五話
「これが、転移門・・・」
『転移門』古代の文明が作り上げた古代遺物で、巨大な石造りのアーチが四方に囲まれているのが特徴である。ゲートはその四方に囲まれた内側で、特定の魔法言語と魔法石が必要で、詠唱を行うと、目的地を示す光の紋章が浮かび上がり、門が起動する仕組みになっているのだ。こういった『転移門』は大陸のあちこちにあるので、遠出の時には利用することができるのである。ただし、使用の際は決して安くはない。それなりのお値段がするのである。ただし自前の魔力と魔法石持参の場合は話は別である。
話には聞いたことがあったが、実際に転移門を目の当たりにするのは、レイリアは初めてだった。仕事で遠出することはあったが、近隣諸国の距離であったし、馬を駆っていくことが常であったからだ。
『転移門』があるのはアーレンベック共和国のサザの街から少し離れた東にある「トゥーエ」という街だった。トゥーエは国境近くにある街で、転移門があることから、貿易が盛んな街として有名だった。また転移門が悪用されぬよう、警備は厳重に行われており、常に悪用されぬよう、四六時中監視がされているのだ。
この街、トゥースにてアントニーの仲間も先ほど合流し、レイリア一行と門を使って、イ・ベルディ獣王国へと向かうことになっていた。
そしてアレクは、卵を背負っている。
「アレク大丈夫?」
「まぁ言うほど重くはないっから大丈夫。」
「この卵がどうなるか楽しみだな。」
ヴァンは卵を見てニヤニヤしてた。
「孵化したドラゴン早く見てえなぁ」
なぜかヴァンは嬉しそうだった。
「え?じっちゃんもしかして楽しみにしちゃってる?」
「そらそうだろ!」ドラゴンの卵だぞ!滅多と見れるもんじゃねぇしな!」
「言われてみればそうね・・・」
「だろ?」
「だったらじっちゃんが背負ってくれよ。」
アレクは憮然と言うと、ヴァンはニヤッと笑って、
「これも、修行だと思って頑張りな。」
「そう言うと思ったよ。」
アレクが呆れたように言うと、そこにアントニーが声をかけてきた。
「ヴァン殿、そろそろ出発したいと思いますが、ご準備はよろしいでしょうか?」
「あぁいつでもいいぜ。」
「では、参りましょう。」
獣人であるアントニーがアーチの中央に魔法石を置き、そしてそれに向かって詠唱を始めた。するとアーチの内側の広場に大きな魔法陣が展開されていった。
「魔法陣の中にお入りください。」
アントニーの言葉にレイリア達は魔法陣の中に入り、
「では転移します。」
アントニーがそう言うと、辺りはまばゆい光に包まれ、その光はレイリア達も包んでいった。そしてレイリア達は光と共に消えていった。
眩い光に思わず目を瞑っていたレイリアだが、光が落ち着いてきたので、目を開いてみると、そこはもう先ほどまでいたトゥースの転移門ではなかった。
「到着しました。我がイ・ベルディ獣王国へようこそ」
アントニーが、そう言うと先ほどと同じような巨大な石造りのアーチが四方にあった。しかし周りは先ほどまでの場景とは全く異なり、岩場に囲まれ荒涼とした大地に、風化した遺跡が無造作に点在している。崩れた石柱や半壊した建造物が、かつてここに栄華を誇った跡地が見てとれた。レイリアとアレクは、初めて見る異国の広がる景色に胸が高鳴っていた。
「ここが?」
「えぇ、ここからもう少し行けば王都ですが、ここは今は『転移門』としか使っていないのです。ただ見てわかると思いますが、昔の遺跡が残っていますけどね。」
「本当に一瞬で異国の地にきたのね。」
「そうだな・・・」
レイリアは転移の魔法は初めてだったので感動していたが、アレクは以前に巻物で転移したことがあるので、経験済みだ。
「あ、卵は・・・大丈夫ね?」
「あぁ、特に変わりない。」
「では、あちらに見えている宮殿に向かいますので、ご案内します。」
アントニーが指し示す方向には、まるで蜃気楼のような大きな異国の宮殿があるのが見えた。アントニーに連れられ、レイリア一行は、王都にあるイ・ベルディ獣王国の宮殿に向かった。




