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第六十二話

 その男の風貌は、年の頃は二十代くらい、灰色の少し長めの髪に、切れ長の黒い瞳をもつ、整った顔をした男だった。そして最大の特徴は頭からは犬のような耳が生えており、そしてよくよく見れば、背後に尻尾のようなものが垂れ下がっているのも見えた。


 「しっぽ?!」


 アレクは男の背後の尻尾をジッと見つめ、その男はそれに気づき自ら説明した。


 「失礼ですが、獣人を見るのは初めてですか?」

 「あ、あぁ。」


 アレクは緊張してるのか、ぎこちない返事の仕方になった。そしてレイリアとアニタもあることに気が付いた。


 「・・・あれ?そういえば、最近獣人の人達ってあんまり見かけなかったわね?」

 「あぁ確かにそうですね。数年前はちらほら見かけたのに、ここ最近は見てませんねー」


 冒険者という仕事柄、いろんな種族に出会うこともある。獣人だけでなく、エルフやドワーフなどもいるが、彼らは希少種なので、頻繁に見かけることはない。ただ獣人はそこまで希少種というわけではないが、ここ最近見かけなかったのはお国事情が絡んでいたのだ。


 「あぁ、それには理由があるんです。」

 「理由?」

 「はい。自分の国イ・ベルディ獣王国では何十年かに一度、王位継承を決めるための争奪戦があるのです。獣人と言ってもいろんな種族がいますからね。それぞれの一族の代表を決めるために、腕に自信がある者と推薦枠で、まずは部族内の代表を決めることになります。そして代表となったものが、次代の王を決めるべく、部族対決をします。そのために皆それに駆り出されるので、各国にちりぢりになった一族の者は、その期間は一斉に自国に戻るのですよ。」


 イ・ベルディ獣王国は王制ではあるものの、その選出はかなり変わっていて、まさに実力主義なのだ。世襲制ではなく、真の強者が王になるために、各部族の代表がトーナメント方式で試合をするのが習わしだった。 


 「だから、ここ数年見かけなかったのね。」

 「その通りです。」

 「王位って・・・世襲制じゃないんだ。」


 アレクの国も帝位継承で、世襲制だったので、イ・ベルディ獣王国の王の選出の仕方に驚いていた。


 「そうですね。他国の王制は世襲制が多いと伺っておりますが、自分達は獣人です。動物界における、弱肉強食の世界、とまでは言いませんが、近いものがあります。真の強者が民を導く、というのが我々のやり方なのです。」

 「ある意味、わかりやすく理に適ってるのねー。」

 「たしか・・・イ・ベルディ獣王国の新しく王になったのは、トラ族の女王だって話だったよな?」


 ギードが思い出したかのように言うと、アントニーは頷いた。


 「はい、今はトラ族出身の女王が治めていらっしゃいます。」

 「えーー女王様が納めてるんだ!」

 「すごい!」


 レイリアとアニタは同性ということもあってか、テンションが上がっていた。


 「女王の名にふさわしい女傑ですよ。」


 そう言ったアントニーはどこか誇らしげだった。


 「ということは、貴方はイヌ族なんですか?」


 アレクは恐る恐る聞いてみると、


 「・・・よく間違われるのですが、自分は狼族です。」

 「・・・あ、すみません。」

 「いえ、慣れてますので。」


 ほとんどの人は犬と狼の耳の違いはわからないので、アントニーは間違われることに慣れていた。


 「そして・・・自分はその女王に使いでこちらに参りました。」

 「「「ええーーー?!」」」


 まさか今話題になったばかりの女王からの使いなどとは、夢にも思っていなかったので、ギード以外は驚いていた。


 「まーそら驚くよな。」


 ギードは頭をポリポリと掻いていた。


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