第六十一話
「なかなかにスピード解決でしたねぇ~」
「まーね。ある意味ラッキーなのかしら?」
「・・・別件はしょいこんだけどな。」
冒険者ギルド『ゼルタ』にて、レイリアとアレクはギルドの応接室で、ブリュネ村の依頼完了の報告を、ギルドマスターのギードと受付嬢のアニタに報告していた。そして持って帰ってきた卵は、ソファとソファの間にあるテーブルの真ん中に鎮座していた。
あの後、レイリアとアレクはブリュネ村に卵を持ち帰って事の顛末を村人たちに話した。村人たちは、呆気ないほど了承し、それがグリーンドラゴンの真意ならば異論はないと、ご神体として今まで祀っていた卵を持ち出すことに快く承諾してくれたのだ。
「まーまーすんなりいってよかったじゃねぇか。」
「マスターそうは言うけど、こっからのが大変じゃね?」
「くくっ、アレクの言うとおりだな。」
大変とはわかっていても、ギードは笑いを堪えられなかった。
「そうねぇ、確かにこの卵いつ孵るのかしら?」
レイリアは卵をこんこんと叩いてみた。すると、そのタイミングで、応接室のドアがノックされた。
「歓談中失礼します。マスターに会いたいという男性が来られているのですが・・・」
ギルドの受付嬢がギードを呼びに来た。
「なんだぁ、アポなしかよ。そんなもん待たせておけ」
ギードの無碍な物言いに、レイリアは呆れたように、
「おじ様、こっちは今は特に急ぎではないから、行ってあげて。」
「ちっ、しょうがねぇな。じゃちょっくら行ってくっか。あとはアニタ頼んだぞ。」
「了解です。マスター」
ギードは面倒くさそうに腰を上げ、部屋を出ていった。
「さて、と。では今回は指名依頼でしたので、報酬はこちらになります。」
そういってアニタは、金貨を七枚テーブルに置いた。レイリアとアレクは思っていた以上の報酬だったので驚いた。
「うわ。多すぎない?」
「もともとブリュネ村は、経済では割と潤った村ですしね。そもそも依頼を請け負った時から、村の安全のためには惜しまないって話だったので。」
そういうと、アニタはいたずらっ子のようにウインクした。
「それにさっきも言いましたが、ランク指定の指名依頼となれば、金貨は妥当なんですよ。とはいえ、レイリアさん達が帰ってきてまだ間もないので、しばし検証期間は有りますけど、そもそもの目的が『調査』ですからね。まさか解決して帰ってくるとは思わなかったので。」
「ふふ、確かにね。まぁ何にしても早期解決できてよかったわ。」
「あとはこの卵だなぁ。俺達といたら、ルネと出会えるとか言ってたけど、ってことはもしかしてコレ当分担いで移動しないといけないのか?」
アニタとレイリアは、卵を背中にしょったアレクを想像して思わず笑ってしまった。
「何、笑ってるんだよ!俺は担がねぇぞ!」
「おい、入るぞ。」
アレクは慌てて否定していた。そこへ先ほど部屋から出て行ったばかりのギードが戻ってきた。
「あれ早かったのね。」
レイリアが少し驚いていると、ギードの後ろに人がいることがわかった。だがよく見ると
「え?耳??」
ギードの後ろには男が立っていた。顔はギードに隠れてまだよく見えていなかったが、その頭にはまるで犬のような耳が付いていたのである。
「まさか?!」
「すまんな。ちと急な案件だったので、一緒に話を聞いてもらおうと思って連れてきた。さ、自己紹介してくれるか。」
頭に犬のような耳が生えているその男は、足を揃え、腕を胸の前で拳を作り敬礼のポーズをとった。
「急な来訪申し訳ありません。自分はイ・ベルディ獣王国から来ました、アントニー・ガゼロと申します。以後お見知りおきを。」
「獣人・・・?!」
アレクは思わず、声に出してしまった。なぜならアレクは初めて獣人を見たからだ。




