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第五十九話

 「祠にある丸い石のような物を見ただろう」

 「あの祠に中にあったヒビが入った石のことですかね?」

 「そうだ。」

 「あの・・・アレって誰かが石を傷つけたってことでしょうか?」


 祠にあった石を思い出し、予想していたことを、レイリアは恐る恐るグリーンドラゴンに聞いてみた。


 「ふむ、それは半分正解で半分不正解だ。」


 グリーンドラゴンからは意味深な言葉が返ってきた。


 「え?それってどういう意味ですか?」

 「祠が荒らされておっただろう。確かにどこぞの輩が、祠の中にある物を狙ったのはその通りだ。だが、アレに傷を負わすことはしていない。」

 「え?でも現実に傷が??」

 「あれは傷ではない。ヒビだ。」

 「えぇと、傷を負わされてヒビになった・・・んじゃないってこと?」


 レイリアはこんがらがってきた。


 「あれは石に見える玉が、自ら内からヒビを割ったのだ。」

 「あーーそういうこと!って、でもあれ?」

 「もしかして・・・石だと思ってたけど、あれ卵ってことなのか?」


 グリーンドラゴンはアレクの回答に、満足そうにニヤリとし、


 「アレク、その通りだ。」

 「えーーーーーっ」


 レイリア達が石だと思っていたのは卵だった。宝珠かそれに関連するような何かに擬態している可能性を考えてはいたが、まさか卵とは想像もしていなかった。


 「だって『竜の涙』っていう名前だから、てっきり涙が固まったとか、そういうのだと・・・」

 「うむ、巷ではそのように言われていることは、知っておる。訂正するのも面倒だったので、そのままにしておいたが」

 「「・・・・・」」


 竜でもめんどくさがりっているんだなと、レイリアとアレクは同じことを思っていた。

 

 「あれには、私の次代の身体が入っている。」

 「身体・・・?」


 アレクは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに気が付いた。


 「まさか・・・」

 「私のこの身体はもうすぐ死ぬ。だが私の魂は次代の身体へと、生まれかわるのだ。それももうすぐ孵化する。だからあの卵にヒビが入ったのだ。」

 「そんな、もうすぐ死んじゃうって・・・・」


 レイリアは、だから身体がやせ細っていたのかと気が付いた。


 「それ自体は別に構わぬ。そういうものだから。ただ私には未練があるのだ。」

 「未練って一体・・・?」

 「ルネのことだ。」 

 「あぁ伝承で聞いた、精霊ルネのことですね。でも確か・・・」


 レイリアはその先の言葉に詰まってしまった。亡くなったのではと、口にすることに躊躇われたからだ

 

 「そうだ。ルネは亡くなってしまった。だが・・・今はいるのだ。」

 今はいる、という言葉に、レイリアは意味がわからなかったが、アレクは気が付いた。


 「それってもしや・・・!」

 「察しがよいな。そうだ、ルネは転生して今はどこかで生きている。私はルネに会いたい。だから、私の卵を外に連れだして欲しい。それが頼みたいことだ。」 

 「え・・・でも村人に反感くらしそうだけど・・・」


 レイリアの言うとおり、そもそも村ではご神体として祀られている代物だ。それを簡単に連れて行けと言われたことに躊躇してしていた。


 「そんなもの、私が頼んだわけではない。私は私の行きたい所にいくだけだ。」

 

 グリーンドラゴンは我儘だった。


 「頼みたいってことはわかったけどさ、結局なんで魔獣は狂暴化しちゃったんだよ?」

 「・・・そうだった。それが本来の目的だったわ。」

 「リアねぇさん~~」


 アレクは脱力していた。  


 「それについては、魔獣の狂暴化は私の魔力に当てられたのだ。それであのようになったのだ。」

 「当てられたってどういう意味?」

 「先ほど、半分正解で半分不正解だと言っただろう?」

 「言ってましたね。」

 「祠自体は、私の次代の身体を構成する為に、それを外に漏らさないように結界が張られていたのだ。」

 「「??」」

 「つまり、私の次代の身体を作るため、卵には膨大な魔力が注がれている。それを外に漏らさないために祠に結界を張っていたのだ。だが、その祠はどこぞの輩に壊されてしまった。それ故に、私の身体を作るための魔力が外に漏れ出してしまったのだ。そのせいで外に居た魔獣たちに影響が出てしまったのだ。私の魔力は魔獣には、心身ともに影響をもたらせてしまう。実際に姿形が変わったモノもいただろう?だから祠に私の魔力が外に出ないように結界をもたらしておったのだ。だから半分正解で半分不正解だと言ったのだ。」


 グリーンドラゴンの話に、二人は事の顛末を理解することができた。


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