第五十八話
「さっきから俺に話しかけていたのは、あんただな?」
「そうだ。金の同胞の血の連なる輩よ。」
「あーその、金の同胞なんとかって長いから名前で呼んでくれる?俺はアレクって言うんだ。」
「うむ、確かにな。ではアレク、私の声に応えてくれて礼をいう。」
『あれ?』
レイリアは違和感に気が付いた。
『はじめて竜をみたことで、驚いちゃったけど、この竜は・・・・結構やせ細ってるのでは?・・・ということは?!』
あまりにも竜が堂々としていたので、初めは気が付かなかったが、グリーンドラゴンをよくよく見ればやせ細っていることに気が付いたのだ。レイリアは遠慮がちながら手を振った。
「あのー話に割って入って申し訳ないのですが・・・・」
「娘、其方もいたな・・・ほう。これは。」
グリーンドラゴンはレイリアを目を細めてじっと見つめ、
「なるほど、娘よ。其方は女神の加護を受けているのだな。そういった者は久しく見る。」
「え、女神の加護って・・・?」
「其方、稀有な力を持っているであろう。」
「稀有?・・・・あっ!」
女神の加護とは一瞬何のことだと思ったが、稀有な力と言われ、それが『祝福』のことを示していると理解できた。
「すごい、そんなこともわかるんですね・・・」
「うむ、造作もないことよ。して何の用だ?」
レイリアは驚いた。竜は一目で、自身がもつ『祝福』を当てられるとは思わなかったからだ。さすが竜だなと、同時に納得もしていた。そしてすぐに本来の目的を思い出し、
「気のせいだったら、申し訳ないのですが・・・これを」
レイリアがグリーンドラゴンに差し出したのは、自身が携帯していた非常食だった。
「これを私にか?」
「はい・・・だってあまり食べられていないのではないですか?その、痩せているように見えたので・・・」
「ほう・・・」
「リアねぇさんわかるの?」
「うん、何となくだけど。」
ドラゴンは目を細め、心なしかその表情は嬉しそうだった。
「女神の加護を受けし心優しき娘よ。」
「・・・・・」
一瞬誰のことだと思ったが、アレクに肘で小突かれ、レイリアは自分のことだと気が付いた。
「あ、私のことね。あの、すみませんが、私もそれ長いので、私のことはレイリアって呼んでください。」
「うむ、確かにそうだな。ではレイリアよ。」
グリーンドラゴンは素直だった。
「其方の心遣いに感謝する。」
「いえいえ!非常食なのですごく美味しいってわけではないんだけど・・・」
素直に竜から礼を言われると思っていなかったので、レイリアは照れてしまった。
「さてと、では本題だ俺達をここまで呼び込んだのはどういった理由だ?あと、洞窟の外では魔獣が狂暴化しているんだが、それも関係しているのか?」
「アレク、いっぺんに言い過ぎよ。」
レイリアは小声で注意すると、アレクも小声で言い返した。
「なに悠長なこと言ってるんだよ。言っちゃあ悪いがこの竜だって、本当に物分かりがいいとはわかんねぇだろ?もしかしたらリア姉さんが言うように、腹が空いて、その牙を俺達に向けてくるかもしれないんだから・・・」
「うーん。多分だけど、それはない。」
レイリアはアレクの仮説をきっぱりと否定した。
「そんなのわからないだろ?!」
アレクは思わず大きな声でレイリアに言い返したが、
「あーすまぬがさっきから会話が筒抜けだからな。」
「「?!!」」
グリーンドラゴンの声に二人はビクっとした。
「そっか。そりゃこんなところじゃ、声が響くものね。」
「うっ・・・」
アレクはしまったという顔をし、レイリアは小声はもはや意味がない事を悟った。
「アレクの言い分もわかるんだけど、それならここに着いた瞬間に襲ってくると思うのよ。だけど全然そんなことなかったでしょ。」
「あっ・・・・確かに。」
「ならば、答えは一つ私達に何かお願いしたいことがあるんじゃないかなって。」
グリーンドラゴンはレイリアの説明ににウンウンと頷いていた。
「レイリア、その通りだ。」
「ふふ、駆け引きは苦手だけど、こういったことは場数を踏んでればわかるわよ。」
「そしてアレク、其方の言うとおりで、魔獣の狂暴化も関係しているのだ。」
そうして、グリーンドラゴンは、今回の顛末を語りだした。




