第五十七話
「と、祠まで来たけど・・・」
「見るからに荒らされてるな。」
対岸から、祠までやってきたが、村人の話通り祠は荒らされていた。遠目からはわかりにくかったが、祠の奥ばった小さな扉が破壊され、明らかに中にあった物を物色するためだということは、容易に想像することができた。
「うわーこれご神体である『竜の涙』を狙ったのよね。」
「だな。扉開いてるし・・・ってあれ?」
アレクは言うが、扉を開け驚いていた。
「どうしたの?」
「ご神体は・・・盗られてない・・・」
扉が破壊されていることから、てっきり中にあるご神体の『竜の涙』を盗ったのかと思ったが、意外にもそれは盗まれていなかった。
「え?あるの?」
「ある・・・けど、あっ!」
「え?どうしたの??」
「ヒビ入ってる!」
レイリアも祠の扉の中を見た。そこには両手の掌で乗るくらいの大きさの丸い石があった。ただアレクの言うように、それには大きなヒビが入っていた。アレクは『竜の涙』を手に取って、じっくりと見つめ、レイリアもそれにならった。
「うーん、もしかして、これが原因なのかな?魔獣の狂暴化って・・・」
「確かにな。仮説なんだけどさ。」
「うん」
アレクは自分の考えをレイリアに話した。
「多分、どこぞの罰当たりが、『竜の涙』の噂を聞きつけて、まぁ金にしたくて盗みに来たんじゃないかと思うんだよ。」
「うんうん」
「ところが開けてみたら、宝玉ではなくて、石コロだったもんで、ムカついて何かで石を叩きつけてヒビがはいった・・・・」
「おーアレクすごい!名推理!!」
「いや、誰でも考え付くよ、こんなの・・・」
「・・・それもそうね。」
「えっ?なに?」
『・・・・・オクダ・・・』
二人がそんな話をしている時に、アレクの様子に異変があった。
「どうかしたの?」
「何か・・・聞こえるんだよ。」
「??」
『・・・オクニ・・・キテ・・・』
アレクはそう言うが、レイリアには何も聞こえなかった。
「え・・・そっちに・・・?」
「アレク、一体何を?」
「こっちに来いって聞こえる。」
「こっち・・ってどこのこと?それに私は全然聞こえないんだけど。」
「俺だけに聞こえてるのか?ここだ。」
それは祠の後ろにある洞窟でぽっかりと入り口が開いている。物語で伝えられている、竜と精霊の住処だと言われている場所だ。
「ここ?でもここは・・・」
この洞窟はぽっかりと大きく入口は確かに開いてはいるが、入って数歩歩いただけで、洞窟は塞がれており、実は奥には行けないと、村人たちから聞いていたのだ。
それでもアレクは、声に導かれ、二人は洞窟へと入っていった。そしてやはり聞いていた通り、洞窟の中は少し歩いたところで、行き止まりになっていた。
「うん、やっぱりもう進めないよね。」
「だけど、来いって言ってるんだよな・・・」
『ススメ・・・・・』
「進め?どうやって・・・あっ!!」
アレクは声に導かれ塞がれた洞窟の壁に手を伸ばすと、壁の中に手が入った。それは突き当りではなく、まだ先があるのがわかったのだ。
「えぇ?!」
「これ、幻影だ。奥に行ける!」
「そういうことね。」
「何がでるかわからない。気つけて行こう」
「了解!」
アレクを先頭にレイリアはその後ろをついていった。洞窟の壁はところどころにある鉱石の輝きのせいで、まるでライトのような役目をしているため、真っ暗でなかったのは幸いであった。
行き止まりと思われていた場所を突き進んでいたが、やがてかなり開けた場所に出た。時間はそう長くはなかった。
「出られたのか?」
「アレク見て!!」
「!!!」
開けたその場所にたどり着いた瞬間、視界に飛び込んできたのは巨大な存在だった。
緑色の竜がそこにいた。全身を覆う鱗は深い森のような色合いで、鉱石の光が当たるたびにわずかに輝きを放っている。その体躯は堂々としており、洞窟の空間を圧倒するような大きさだ。太い尾が地面に静かに横たわり、前脚の鋭い爪をもちながらも、どこか穏やかで賢そうな表情を浮かべているように見えた。
「グリーンドラゴン?」
レイリアが今まで色々な魔獣を相手にしてきた中でも、竜種と呼ばれる竜もどきの魔獣を相手にしたことはあっても、竜そのものであるグリーンドラゴンとお目にかかったのは初めてだったのだ。
『話には聞いたことがあったけど・・・こんなに大きい竜は初めてみた。それに・・・とても綺麗。』
目を瞑っていたグリーンドラゴンは、ゆっくりと瞼を開けた。
「金の同胞の血の連なる者よ。よく来た。」
それはアレクに向けて言っている言葉だと、瞬時にわかった。それと同時に、
「ドラゴンが喋ったーーー?!」
アレクは、先ほどから声が聞こえていたが、レイリアは声が聞こえたのは初めてだったので、ドラゴンの声を聞いた瞬間驚いていた。




