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第五十六話

 ある時、精霊ルネに寿命が来てしまった。どんなものにも寿命があるが、竜は取り分け長寿であり、精霊はそれには及ばなかったのだ。


 「いやだ、いやだ!ルネ私の元から去っていくなど許さぬ。お願いだ、私を置いていかないでくれ。」

 「ごめんなさい。ドラゴン様。わたくしももっと貴方と一緒にいたかった・・・・どうか、わたくしを忘れないで・・・」


 こうして仲睦まじく暮らしていた竜と精霊だったが、寿命により別れが来てしまったのだ。 


 精霊のルネがいなくなったことで竜は悲しみに暮れ、泣いて泣いて泣き続けたその悲しみから流した涙は『竜の涙』と呼ばれる宝珠となった。


 そうして、ルネと竜を祀る祠のご神体にはその『竜の涙』が祀られ、種族が違えど仲睦ましかったことから、恋愛成就や夫婦円満のご利益があるとして、ブリュネ村に伝わる話となったのだ。



 「・・・・とまぁ、伝承として伝えられる話としては、割と穏やかな部類と言いますか。」 

 「え?っていうことは、まさか祠にあるのは・・・・」

 「そうですね、『竜の涙』があるはずです。」

 「それを先に言ってよ!!」


 さすがのレイリアも突っ込まずにはいられなかった。


 「いや、ですがあれはご神体として祀ってはいるのですが・・・」


 何やら村人は少し困り気味に言い淀んでいた。


 「正直なところ、価値はないというか・・・・」

 「はっきり言ってもらっていいですか?」


 アレクが少しイラついた口調で言った。 


 「つまり、言い伝えとして『竜の涙』とは言われていますが、見た目はただの丸い石なんです。」

 「え?!石??」

 「そうです。だから市場価値はないと思います。ですので、祠をもし荒らしたとしても、意味がないというか・・・だから我々も祠の異常に発見が遅れてしまったわけでして・・・」

 

 「あーそういうわけなのね・・・・」

  

 レイリアは納得したが、アレクは考えこみ、


 「とはいえ、祠に異常があるなら調査は必要だろう。」

 「それもそうね。」

 「はい、こちらとしても手掛かりとしては、そこしか今のところ思いつかないので、調査をお願いします。」



 そういった経緯でレイリアとアレクはルネ湖にある祠を調査することになったのだ。



 


 

 


 現在に戻る____



 「なんで急に??」


 アレクは自身に起きている身体の異常に、驚いていた。以前に『竜紋』が表れてからは、ずっと変化はなかったのに、まさかここにきて範囲が広がるとは思ってもみなかったからだ。


 「やっぱり竜の伝説とやらに関係していると思う方が、自然よね。」

 「共鳴・・・的なやつかな?」

 「うん。私もありえると思う。今のところそれ以外に何かない?」

 「痛みとかは特にないから大丈夫。『竜紋』の範囲もひとまず止まったっぽい。」

 「わかったわ。他に何か異常があったら教えてね。」

 「うん。」



 二人はルネ湖にある祠に向かった。


 


 「グァアアアアアア!!!」


  ザッシュ!!


 「よっ、っと。」


 道中、予想通り狂暴化した魔獣が襲ってきた。しかしレイリアは難なく剣で討伐した。そして討伐したホーンライナースを観察し、

 

 「話に聞いた通りだな。」

 「うん、生態系が見事に変わってる。確かに狂暴化してるわ。ホーンライナースはこんな風に襲ってくるなんてことはないのに・・・」


 聞いていた通り、ホーンライナースは角が増えていて目は真っ赤だった。本来であれば、大人しい魔獣なので、自ら襲いにくるようなことはない。


 「先を急ごう」


 村から湖までは、徒歩で数十分とは聞いてはいたものの、ホーンライナースが襲って来たのを皮切りに、何度かいろんな種類の魔獣が襲ってきた。それは聞いていた通り、元の型と多少変わっており、そして目は赤目だった。魔獣討伐はレイリアとアレクの実力ならばほとんど手間取ることはなく倒せていたが、確かにこれでは村人が湖まで行くのは危険だろうと、二人共が思っていた。


 そうして何匹かの魔獣を討伐して、湖の畔まで到着した。


 「ここがルネ湖か・・・」


 森の奥深くにあるルネ湖は、先ほどまで襲ってきた魔獣のうねり声が嘘のように、静けさに包まれ、水面には空と木々を映していた。対岸には苔むした岩の間に祠がひっそりと佇み、その奥には暗い洞窟が口を開けていた。この湖畔の対岸の向こうに目指す祠がある。


 「実はさっきの聞いた話でちょっと気になってさ」

 「そういえば考え込んでいたわね。」  

 「『竜の涙』っていうご神体のこと。あれ本当にただの石なのかなって。」

 「カモフラージュしてるってこと?」


 レイリアの言葉にアレクはコクリと頷いた。冒険者をしていると、普通では考えられないようなことに何度も遭遇してきた。その経験から、そのご神体とやらもただの石に擬態しているのでは、という疑問があったのだ。


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