第五十四話
レイリアとアレクは、とある森の中にあるという湖を目指して歩いていた。
湖までの道のりは、ブリュネ村から歩いて数十分だということで、二人は馬を村に置いて、徒歩でそこに向かっていた。
「あれ?」
「アレク、どうかしたの?」
「今・・なんだろ??腕の辺り・・・『竜紋』がある辺りが熱くなって、気のせいか?」
アレクはそう言いながら、二の腕を確認した。
「あ!」
「今度は何よ?」
「広がってる・・・」
「えぇ?もしかして『竜紋』が?」
アレクがコクコクと頷くと、レイリアは見せてと、アレクの腕を取った。
「ほんとだ・・・色も濃くなってない。?」
「たしかに。え?なんで?」
二人は訳が分からず、お互いの顔を見合わせていた。
時は遡ること、数時間ほど前_____
アレクとレイリアはブリュネ村に到着していた。
『指名依頼』を受けた二人は、サザの街の西にあるブリュネ村に、馬に乗って訪れていた。
ブリュネ村の南側には、大きな森があり、そこにはルネ湖と呼ばれる大きな湖があった。ブリュネ村は、森の恵みを活かした木工や薬草採取が盛んで、遠方からも取引に訪れる商人がいるほどなのだ。また、湖では魚の捕獲が行われ、村の名物料理として人気があるなど、村としては潤った生活を送っていたのだが、今回の依頼である、魔獣の狂暴化によって、その生活は一変してしまった。今までのように薬草採取もままならず、湖まで行くことも気軽にできなくなってしまったからである。
二人は、今回の依頼内容を詳細に伺うべく、村長をはじめ村の人たちから、村長の家の応接間で、事情を聞くこととなった。
「村長をしております。トマス・カーンと申します。わざわざ、ギルドからお越しくださり、ありがとうございます。」
フサフサとした白髭を片手で少しいじりながら、村長のトマスは挨拶をした。年のせいで少し腰も曲がっている。
「私はレイリア・ブロームと言います。こちらはアレク。」
アレクはペコリと会釈した。
「えっと、よく言われるので先にお見せしておきますね。」
そういうとレイリアとアレクは自分達のギルドプレートを村人たちに見せた。金色と銅色のプレートを見た村人たちは感嘆の声をあげた。
「おぉ、たしかにAランクとCランクの方ですな。」
「こんなにお若いのに、凄い!」
「まして、こんなに若く美しい人がAランクとは・・・」
レイリアはちょっとだけ照れていた。アレクはそんなレイリアの様子に笑いを堪えていた。
「ま、まぁそう言う訳ですので、私達が若すぎるので不安もあるかもしれませんが、経験は、積んでいます。依頼の通りのCランク以上での構成ですので、そこはご安心ください。」
「こちらとしては、依頼通りなら何も言いますまい。あとは結果ですからな。では、早速ですがお仕事の話をさせてもらいますかな。」
テーブルではレイリアとアレク、村長と村人が向かい合って座っていた。
「魔獣が突如、狂暴化してしまった。ということですね?」
「仰るとおりです。」
「それはいつ頃からですか?」
「大体、二週間ほど前くらいでしょうか?」
「はじめは気のせいかと思ったのです。何せ今までそんなことはなかったですから。ですが目撃情報も多数増えてきて、実際に田畑を荒らされたり、怪我人も出てきました。今まではなんとか対応してきましたが、我らは戦闘には全くの不向きゆえ、これ以上犠牲者は増やしたくありません。早急に原因の特定をし、排除してもらいたいのです。」
レイリアの質問に数人の村人が答えてくれていた。
「依頼ではホーンライナースの様子がおかしいということでしたが、他にも何か被害はありましたか?」
「それが・・・確かに依頼をした時はそうだったんですが、他の魔獣も様子がおかしいのです。」
「え?種類が増えたってことですか?」
レイリアは驚きを隠せず、アレクは黙っていたが、怪訝な顔をしていた。
「はい、はじめはホーンライナースだけだったんですが、最近では他の魔獣でも目が赤いやつを見たのです。」
レイリアはそれを聞いて、一つの可能性を考えた。
「もしかして、何かに影響された??」
レイリアがそういうと、村人たちも頷き賛同した。
「実は、我々もその可能性を考えました。」
「なにか、心当たりがあったりします?」
「あります。」
村人は即答だった。
「それは一体??」
「実は、このブリュネ村には竜の伝説があるのです。」
「「竜の伝説?!」」
村人から発せられた『竜』というワードにレイリアもアレクも思わず声が被ってしまった。




