第五十三話
アレクは告白を断ったというのに、カルロッタからの猛アプローチはより加速していた。当然、想い人のいるアレクにとっては、ただただ迷惑なだけで・・・
「うぜぇ・・・」
アレクは自宅の木製のダイニングテーブルに顔を乗せて伸びていた。
「アレクなんだか疲れてるわね・・・」
「あの女!言葉が通じないんだ!!『嫌だ!!近づくな!迷惑だ!』ってはっきり言ってるのに、全く動じないし、むしろ『恥ずかし屋さんなのね♪』とか、斜め上なこと言うんだぞ!!」
「それは・・困ったわねぇ・・・」
さすがにレイリアもアレクの同情を禁じえなかった。
「うーん、なんなら私から言ってあげようか?」
「いや、それはいい。自分で何とかする。ごめん。ちょっと吐き出したかっただけ・・・」
レイリアはアレクの頭をよいしよしとすると、
「またそうやって子供扱いする・・・」
「じゃ、やめる?」
「・・・それもやだ。」
「我儘さんね。」
そう言いながらくすくすと笑い、レイリアはアレクの頭を撫でつづけてた。アレクは満更でもなく、そのままの姿勢で目をつむっていた。
『本当に、俺はリアねぇさんとずっと一緒にいられるだけで・・・俺は・・・』
「満足・・・・じゃない!!」
思わず考えていたことを口に出してしまい、机から上半身を起こした。レイリアは驚いて、手を引っ込めてしまったが、
「え?足りなかった?」
「いや、そう言う意味じゃない。ごめん考え事が漏れただけ。」
「そうなの?」
レイリアは何のことかわかっていないが、アレクは不味いと気が付いたのだ。
『そうだよ!このままだと、俺ずっと一生弟ポジションじゃん!!』
と、いうことに。確かに一緒にいるだけなら、このままでも言い訳だが、アレクとしては異性として、レイリアに見てもらいたい。だが、アレクはまだ十四歳。身体も四年前から大きくなり、レイリアよりは少し大きくなったとはいえ、まだまだ成長期である。そして、ギルドランクはまだレイリアに及ばなかったのだ。とはいえ、差は前ほどではない。僅差にまで追いついていた。
『せめて、もう少し身体が大きくなって・・・それにギルドランクも追いつかないと話にならねぇ。もっと、もっとリアねぇさんよりでっかくなって強くならないと!』
アレクはひっそりと決意を固めた。
そしてそんな時に、ギルドから二人に仕事の話が舞い込んできたのだ。
『指名依頼』である。
冒険者ギルド『ゼルタ』応接室にて_____
アレクとレイリアはアニタから今回の依頼について、アニタから概要を聞いていた。
「魔獣の狂暴化?」
「えぇ。」
「西の方角にある、ブリュネ村からの依頼なんですけど、今まで割と大人しかったホーンライナースという魔獣が性格だけでなく、姿も今まで見ていたモノと違ってるらしいの。」
「えーっと、ホーンライナースってどんなやつだったっけ?」
アレクは、まだ討伐したことがない魔獣だったので、どんな魔獣だったのかわからなかった。それにはレイリアが答えてくれた。
「ツノを持ったサイね。普通の動物のサイは鼻の辺りにツノがあるんだけど、魔獣の場合は、頭部にもツノがあるのよ。あと皮膚の色が動物のサイよりもグリーン系だから明らかに見ただけでわかるわよ。」
「なるほど。」
今の説明でアレクも大体理解することができた。アニタは依頼内容の続きを話した。
「村の人の話によると、単独行動をとる魔獣だったらしいんだけど、それが最近は群れをなすようになったらしいの。それで村の内外問わず、作物が荒らされたり、人が襲われるようにもなったんですって。」
「それは確かにおかしな話ね。」
ホーンライナースは本来割と大人しい魔獣で、身の危険を感じれば襲ってくることもあるが、率先して襲ってくる魔獣ではないことから、話の内容からも様子がおかしいことは明白だった。レイリアの言葉にアニタは頷き、アレクが質問をした。
「あと、姿っていうのは、どう違うんだ?」
「それについては、目の色が違うって。」
「目の色?」
「ホーンライナースの目の色は黒なんだけど、赤色になっているって。」
「確かに・・・私の知っている生態とは変わってるようね。」
「で、依頼内容っていうのは?」
「つまり狂暴化しているっていうホーンライナースの原因を調査してほしいの。もちろん襲ってこなくなるのが一番だけど、まずは原因を排除しないとまた同じことになってもね・・・」
「なるほどね。それならそこそこギルドランクが高い人に依頼がくるわね。」
今回の『指名依頼』は個人ではなく、ランク指定のものだった。ギルドランクC以上、つまり銅以上で請け負うことになっていた。レイリアは現在Aランク金であり、アレクはCランクの銅だった。
「どうですか?引き受けてくれます?」
アニタが聞くと、
「「もちろん!」」
二人はOKと返事した。
こうして、二人はアーレンベック共和国の西にある、ブリュネ村に行くことになったのだ。




