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第五十話

 「はっくしょん!」

 「アレク風邪でも引いたの?」

 「・・・誰か噂でもしてるんじゃないかなっと。」


 昨日、依頼で討伐したタイガーサーベルを今日はギルドに納品するために、サザの街に向かっている道中だった。荷馬車にタイガーサーベルを積み、御者はアレク、その横にレイリアが座っていた。 

 

 「あ、何その意味ありげな発言?って、あっ!」


 レイリアは話してる途中であることを思い出した。


 「え、どうしたの?」

 「そうそう。アレクあの子とはどうなったのよ?」


 レイリアは前のめりにワクワクといった感じで聞いてきた。


 「あの子???」


 アレクは本当に思い当たることがなく、頭の中は疑問符だらけだった。だが次のレイリアのセリフで思い出した。


 「ほら、新しくギルドの受付に女の子が入ってたじゃない?この前その子に告られてなかった?」

 「・・・・・えー?・・・っと、あぁ言われてみればあったね。そんなことが・・・」


 確かに言われて思い出したが、アレクにはどうでもいい話だった。だから言われるまで思い出すこともなかったのだ。確かにこの依頼を受ける時に、受付に入って間もない名前も覚えていない受付嬢に告白されたが、それについては無碍なく断っていた。


 「私もあれから違うことしてたから、どうなったのか聞くの忘れちゃったんだけど、どうなったの?付き合うの?」


 レイリアは興味深々といった感じだったが、アレクはレイリアのそんな様子にかなりショックを受けていた。


 「・・・リアねぇさんは、俺が他の子と付き合ってもいいんだ・・・」

 「そりゃぁね。可愛い弟が幸せになれるんだったらね。あ、だからって勿論誰でもいいってわけでもないのよ。できれば可愛くて性格のいい子がいいんだけど。付き合ってみないとわからないなんてこともあるでしょうし・・・」

 「俺は・・・・」

 「ん?」

 「よく知りもしない子と付き合うとか無理だから。」

 「そっかぁ。ならアレクは一目惚れとかなさそうね。じっくり相手を見て好きになるタイプなのかな。」

 「あぁ・・・そうだな。」


 と、素っ気なくアレクは返事をしたが、心中は穏やかではなかった。


 『リアねぇさん、まっったく俺に眼中じゃねぇええ!!!』


 そう、アレクは今ではすっかりレイリアに心を奪われていた。初めの頃こそは、『助けてくれた優しいお姉さん』的な位置付けであったものの、それが次第に恋心へと変わっていったのは、無理もないことだろう。だが肝心の恋愛対象であるレイリアは、アレクを異性とは見ておらず、それこそ血は繋がっていないものの、可愛い弟としか見ていないのである。アレクも弟しか思われていないのでは?と薄々恐れていたことが、この場ではっきりと確定してしまったからだ。

 

 『そうじゃないかとは思ってたけど、やっぱりかぁ。』  


 アレクは落胆してしまい、思いっきり態度に出てしまっていた。

 

 「アレクどうしたの?俯いちゃって。手綱持ってるんだから危ないわよ?」

 「ご、ごめん。大丈夫。」


 アレクは慌てて顔を上げた。


 「うん。大丈夫。」

 「う、うん?」

 

 アレクは大丈夫とは言ったが、心中は真逆で全然大丈夫ではない。

 

 『まずい。このままだと絶対不味い!ただでさえ、リアねぇさん狙ってるやつが増えてきて、こっそり排除していたのに~~』


 レイリアは自覚はないが、実はモテていた。色気が出てきたことによってギルドでもレイリア狙いの野郎どもが増えていたのだ。だがアレクはそういった輩にはこっそり圧をかけて、排除していた。もちろん若輩のアレクが圧をかけるには、それなりの実力がないと無理な話で、この四年の間ヴァンの鍛錬により、アレクは見る見るうちに実力をつけてきた。レイリアのギルドランク、ブロンズランクの最年少記録を塗り替えたほどに。今ではギルドでアレクは一目置かれる存在となっていたのだ。


 「どうしたら・・・」

 「どうしたら?」

 「・・・いやなんでもない・・・・」

 「??」


 一体どうしたら、レイリアに自分を異性として見てもらえるのか。アレクは考えるのであった。

 

 

 




 冒険者ギルド『ゼルタ』にて___



 「あら?カルロッタ何かご機嫌ね?」


 受付嬢のアニタが同じく受付嬢をしている後輩に話しかけた。


 「先輩わかります?今日あたり、アレクさん来るんじゃないかなーって。」

 「あぁ・・・ヴァンさんとこのね。」

 「あー早く会いたいなぁ。」

 「・・・・・やめといた方がいいと思うけどね。」

 「え?何かいいました?」

 「なんでもなーい。さ、仕事仕事。」


 アニタはそう言うと、書類整理を始めた。後輩の受付嬢カルロッタは、先ほどアニタが言った言葉は耳に届いていなかった。


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