第四十九話
あれから、4年後________
「リアねぇさん、そっちいった!」
「アレク任せて!」
木に登り枝の上に乗っていたレイリアは弓をつがえ、獲物である魔獣に狙いを定めた。
『いまだ!』
タイミングよく、弓を放ちそれは眉間に刺さった。
「グッアアアアアァァァァ!!・・・・」
魔獣は断末魔を上げ、事切れた。
「よし!」
魔獣を仕留め、レイリアは木から降りてきた。
「ふーっ」
「リアねぇさんやったね!」
二人は仕事が終わったことを意味するかのように、ハイタッチした。
レイリアは十九歳、
アレクは十四歳になっていた。
二人共4年前よりも成長し、レイリアに関しては成人しており、今ではすっかりと大人の女性の風格があった。もともと少し大人びてはいたが、あの頃よりも体つきが女性らしいメリハリが出て、さらに色気を放つようになっていたのだ。だが、本人にその自覚は全くない。
アレクも成長し、身長も伸びて、今ではレイリアより少し高いくらいになっていた。顔つきは精悍さが現れはじめてはいたものの、まだ昔の幼さが少し残っていた。細身とはいえ、その体つきは鍛えられ、力もそれなりについていた。
あれからも、ずっと二人は冒険者を生業として、平和に暮らしていた。もちろんヴァンも健在だ。
「タイガーサーベルは警戒心が強いから、なかなか追い込むのが大変だったわね。」
「見つけた時は楽勝かと思ったんだけどな。」
今回仕留めた魔獣はタイガーサーベルという名の、普通のトラよりも一回りも身体が大きく、最大の特徴は名の通り異様なまでに大きい二つの牙を持っている魔獣だった。
「そうね。ま、なんにせよ、依頼は達成できたから結果オーライってね!!」
「だな。腹減ったから、早く帰ろうぜ」
「じっちゃん。待ってるしねー夕飯何かなー?」
アレクは間近にあるレイリアの横顔を見て思っていた。
『本当に・・・幸せだな。このままいつまでもリアねぇさんとずっと、ずっと一緒にいられたら・・・』
「アレク、何をボーっとしてるのよ。」
「!ごめん、ついぼんやりしてた!」
「?」
アレクはレイリアをジッと見つめていたことをバレたくなくて、慌てて視線を下に向けた。
二人は獲物であったタイガーサーベルを縄でしばり、それをアレクが引き摺って、家路についた。
リンデルベルク帝国の皇居の寝室にて____
中高年の男がベッドに伏していた。そして瞼をゆっくりと開けると、周りから声が上がった。
「上皇陛下!」
「兄上・・・・・!」
上皇つまりアレクの父親であるバルダザールは今は体の不調のため、ベッドに伏せていたのだ。身体の不調が続いていたバルダザールは二年前にアレクの兄であるファーレンハイトの皇帝の座を明け渡し、今は隠居の身であったが、ここ最近は特に不調が悪化し、眠っている時間が増えていたのだ。
そして、丸一日振りに、目を覚ましたのだ。
「ラムレスと二人で話がしたい・・・・」
王弟であるラムレスは現在も外交官として、公務を忙しく回していたが、兄バルダザールの不調から、今は公務の量をセーブしていた。まだ皇位についたばかりの甥っ子であるファーレンハイトの補佐をする為でもあった。
「すまぬが、兄上のお達しだ。人払いを。」
「御意。」
召使いと皇医が部屋から出ていき、寝室にはラムレスとバルダザールの兄弟のみとなった。バルダザールは水を欲したので、ラムレスはバルダザールの上半身を起こし、ナイトテーブルに常備してある水差しから水を入れ、そのグラスを渡した。バルダザールはそれを一気に飲むと、
「ラムレス・・・」
弟の名を呼ぶも、バルダザールは視線を合わせることはしなかった。むしろバルダザールの視線は何もない空間であったが、その先の何かを見ているような、そんな眼差しだった。
「兄上、どうされた?」
「夢を・・見たのだ。」
「夢?」
「そうだ・・・久しぶりに見たよ。いや、ベアトリスが亡くなってから初めてだな。」
「義姉上の?」
「あぁ・・・叱られたのだ。ベアに・・・・夢の中で、何をしているのだと。我が子を愛していないのかと、あなたと私の愛の証なのに、それをなかったことにしたいのかと、叱責を・・うけた・・・」
ラムレスはそれを聞いて目を見開いた。バルダザールの口から、初めてアレクを今まで蔑ろにしていたことに触れたからだ。




