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第四十七話(アレクの過去⑦)

 皇子・・・アレク様、起きてください。


 『え・・・せ・・・先生の声??』


 「あっ??!!」


 アレクは慌てて飛び起きた。


 「すみません。当身とはいえ、痛かったですよね。監視されていたので、手加減が難しかったものですから・・・。」

 「監視?手加減?せ・・・先生?え・・ここは?」


 辺りを見回すと、そこは見知らぬ場所だった。まだ月が頭上にあることから、時間は深夜であること。周りには木々が生い茂てる様子から、森の中らしいということはわかった。そして後宮からステファンに連れ出されたということも。だが何故こうなったのかアレクは訳が分からなかった。


 「森・・・?」

 「申し訳ありません。咄嗟にだったので、ここまでが精一杯でした。本当は海の方面に逃げる予定でしたが、追い詰められたとはいえ、真逆に逃げてしまうとは、私もまだまだですね。」

 「先生・・・・」


 そう言うと、困ったような顔をしていた。

  

 「すみません、追手が迫っていますので、手短に話します。まず、妹の話は嘘なんです。私は天涯孤独の身ですから。」

 「嘘??一体どういうこと・・?」

 「ラムレス様はきっとご自身が不在の時に、第二夫人が仕掛けてくるとわかっていらっしゃいました。だから貴方を国から逃がすために一芝居打つことにしたのです。」

 「叔父上が・・・?」

 「はい。わざと隙を作るために、偽の戸籍を作り、私に妹がいるように仕立てたのです。そうすれば、あの第二夫人のことですからね、それを脅しに使うであろうことは、ラムレス様は読んでいらっしゃったのです。」

 「え・・・じゃ人質の人は大丈夫なの??」

 「ラムレス様の配下の者です。今頃は解放されていると思いますよ。平民ではありませんからね。きっと身分を明かしてます。その手筈ですから。」 

 「じゃ・・・先生は大丈夫なの?」

 「ええ」


 安心させるように、ステファンは微笑んだ。それを聞いてアレクは安心した。


 「良かった、よかったーー!!!」


 だけど、ステファンは表情は少し困ったような顔をして、


 「アレク様、喜んでいるところに水を差すようで申し訳ありませんが、これからのことを話します。このスクロール(巻物)を持ってください。」

 

 ステファンは袋から、紐で縛られた巻物を取り出し、それをアレクに手渡した。


 「ス・・クロール?」

 「はい。これは紐を解き、広げると転移することができます。つまり、瞬時に定められた目的の場所に移動することができるのです。高等魔術が仕込まれているレアものなのです。まず庶民は手が出せません。それぐらい高価なものなのですよ。」

 「これが・・・え、でもこれを一体どうして僕に?」


 アレクはその時、はっきり何かとはわからなかったが、不安がよぎった。


 「これを使って、リンデルベルク帝国よりも離れた北にある『アーレンベック共和国』に行くのです。」

 「ええ?!」

 「正確にはアーレンベック共和国の街にまで行けるはずです。」

 「わ、わかった。じゃ先生も一緒に。」

 「・・・すみません。それはできないんです。その巻物は一人用ですから・・・」

 「え・・・僕一人で・・・行くってこと?」


 アレクは、先ほど感じたのはこのことなのだと確信した。


 「い・・・いやだよ。先生は?!一緒に行ってくれないの?」

 「私はここで追手を食い止めます。先ほど監視を伸しましたからね。第二夫人の勢力にバレるのも時間の問題です。」

 「嫌だよ!先生一緒に・・・」

 「そうしたいのは山々なんですが、段取りが全て上手くいったわけでなくてね。そもそもスクロールも最終手段でしたから・・・追手を煙に巻く必要があります。ですので、ここでお別れです。」

 「先生嫌だ!殺されちゃうよ!!」


 アレクの目には涙がいっぱいだった。ステファンはそんなアレクを愛おしそうに見つめるも、首を横に振り、


 「ダメです。私はラムレス様の命令を遂行します。貴方を全力で死守し、最悪は逃がすようにと、命を受けています。私はラムレス様から失望されたくないのです。わかってください。アレク様」


 困ったような顔をしながらも諭すように言い、アレクをジッと見つめた。そしてすっと掌でアレクの頬を撫でた。


 「本当はもう少し、貴方に・・・アレク様に剣術をお教えしたかったです。」


 ステファンは少し寂しい顔をしたかと思うと、笑顔で別れの言葉を言った。


 「さぁ、もう行ってください!必ず生き延びてください!」

 「せ・・・先生ーーー!!」


 ステファンは翻し、逃げて来た方向へ行ってしまった。残されたアレクは一瞬呆然としたものの、先ほど言われたばかりのステファンの言葉を思い出した。


 『必ず生き延びてください』


 涙をグッと拭い、アレクは決意した。


 『そうだ、ここまで逃がしてくれた先生の思いに、叔父上の思いにも僕は報わなければいけない!』


 「生き残ってやる!」


 アレクは泣きながらそれを声にすると、スクロールを広げた。広げた巻物から光が放たれ・・・アレクは光に包まれた。









 そして____


 スクロールから転移してきたその場所は、先ほどまでとは全く様子の違う森の中。そこで、レイリアとの出会いが待っていたのだ。  


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