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第三話

 「はい、早くできることに拘ったから急ごしらえのモノばかりだけど、味はそんなに悪くないと思うわ。遠慮なく召し上がれ!」 


 木製のテーブルに並べられたメニューは森で取れたキノコがふんだんに入ったクリームシチューと自家製パン、それに分厚く切ったハムをシンプルに塩コショウで味付けして焼いたものであった。


 「このハムは町で美味しいって評判のお店のものだからお勧めよ。」


 『あ、よく考えたら身なりがいいから、きっと貴族の子よね?庶民の食べ物じゃ口に合わないかしら?』


 アレクはジッと食事を眺め、シチューから漂う香りにゴクリと喉を鳴らした。レイリアは心配そうに見ていたが、アレクの様子をみていると杞憂だということがわかった。


 「美味しそうな匂い・・・本当に食べていいの?」

 「勿論!おかわりもあるから遠慮しないでね。」


 アレクはお皿の横にあるスプーンを手に取り シチューを啜った。

 

 「 お、美味しい !」 

 「良かったわ。あ、だけどパンは昨日作ったものだから少し硬くなってると思うし、スープに浸して食べても美味しいわよ。こんな風にね。」

 

 そういうとレイリアはパンをちぎってシチューに浸し見本を見せてみた。アレクはソレを見て、恐る恐る真似てみた。  


 「!ほんとだ美味しい!」

 「ね。ふふ、少し行儀は悪いけどね。」


 あっという間に空になったスープ皿を見て残念そうな顔をしているアレクに、レイリアはクスリと笑い、


 「シチューのおかわりいる?」

 「い・・・いいんですか?」

 「ふふ、もちろんよ。」   


 アレクの表情はパァっと明るくなった。お替りしたお皿を受け取り、再び美味しそうに食べているアレクの様子を微笑ましく見ていたレイリアであったが、同時にレイリアは違和感を感じていた。


 『もしかしてこの子、冷遇されて育ってた?』


 レイリアは料理には多少腕に自信はあったものの、それはあくまで庶民の味としてだ。貴族の食事は、基本本職であるお抱えのシェフがいるはずだ。比べれば明らかに味も見栄えも見劣りするはずなのに、それはもうご馳走かのように、がっついて食べていたからだ。


 『身なりは確かにいかにもお貴族様って格好ではあるけど、現在はボロボロだものねぇ・・・そういや追手がどうのこうのも言ってたし・・・

 この子絶対訳有りよね。う〜こういう時、どうしたらいいんだろう?ギルドの協力は不可欠よね。あとはやっぱり・・・』


 レイリアはアレクの今後の対応をどうしようかと思案を巡らせていたら、食事を食べ終わったアレクが何かを決心したかのように切り出した。


 「ごちそうさまでした。あの・・・レイリアさん、お願いがあるんです。」

 「お願い?」

 「・・・助けてもらったのに、こんなこというのはズルいってわかってるんですが・・・」

 

 『追われてるみたいだったから、匿ってほしいとかかな?』


 ところがアレクが話した内容は想定外で、さらに思い詰めた表情で、


 「僕を見なかったことにしてほしいんです!助けてもらったのに、こんなこと言って本当にごめんなさい!」


 アレクはそう言うと深々と頭を下げた。レイリアは自分が想像していたこととかけ離れていたので驚いた。


 「えっと、ど、どういう意味?」

 「言葉の通りです。僕のことは見ていない。だから、助けてもらったんだけど、助けてない。ううん、存在を見なかったことにしてほしいんです。」

 「!!」

 

 レイリアはわかった。この少年が何故こんなことを言い出したのか。


 「・・・私に、迷惑をかけたくないのね?」


 レイリアがそう言うと、俯いていたアレクの身体はビクッとした。図星であった。


 「アレク、貴方追われているんでしょ?詳しくはわからないけど多分どこぞの・・・そうね、貴族とか権力を持った輩に。」


 レイリアがそう言うと、アレクは目を合わせないように唇を噛み締め、視線を横に逸らした。それは肯定するようなものであった。


 「私が関わることで、迷惑をかけてしまうって、そう思ったからそんなこと言ったのね?」

 「・・・・・」


 アレクはしばしの沈黙の後、話し出した。


 「僕の味方になった人はみんないなくなった。だから、だから僕に関わっちゃいけないんだ!」


 アレクの目には涙が溜まっていた。何があったかはわからないが、幼い少年がこんなことを言うのは余程のことが起きたのだろうとレイリアは推測した。


 「そういうことなのね・・・」


 レイリアは腕を組み、目を閉じて自分の過去を思い出していた。


 『あぁ、この子は私とよく似てる・・・・・』


 それはレイリアの幼い頃の記憶だった。

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