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第三十八話

 アレクとヴァンは依頼を終え、自分たちの住まいのログハウスに帰ってきた。


 「おかえり!」


 先に帰宅していたレイリアは夕飯の支度を終え、帰りを待っていた。そしてアレクは夕飯が終わったら二人に話がある。といい、その後心なしかアレクは緊張しているようにレイリアの目には見えた。






 食事を終え、アレクは切り出した。


 「リアねぇさん、覚えてる?話したいことがあるって話。」

 「もちろんよ。・・・でもいいの?無理になら話さなくても・・・」

 「ううん。ちゃんと話しておきたいんだ。」

 「わかったわ。」


 レイリアが頷くと、アレクは話し出した。


 「まず、ある物語を聞いて欲しい。」


 それは、アーレンベック共和国の南にある国、リンデルベルク帝国に伝えられている。昔話だった____



 はるか昔、それはリンデルベルク帝国がまだその国名を名乗る前の物語であった。


 竜は山奥の深い霧に包まれたアジュドラゴ山、通称「竜の山」というところに住んでいた。人々は竜が持っている力を手に入れるため、幾度もアジュドラゴ山の竜が住んでいるという「竜の領域」へ侵入しようと試みたが、すべて失敗に終わっていた。竜の持つ万能の力に人間は太刀打ちできなかったからだ。そしてやがてはそれは無謀と知らしめられ、触れてはいけないものとして、アジュドラゴ山の「竜の領域」に近づくものはいなくなった。


 それから、時が経ちアジュドラゴ山に隣接しているロイスナー王国は、隣国から侵略されそうになっていた。

起死回生の策として、ロイスナー王国のフィン王子は、何としても竜の力を我が物にしようと、アジュドラゴ山に赴いた。

 そこで、一人の美しい少女リリアナ に出会った。リリアナは竜の番人として、何人も入れないように門番の役目をしているのだと言った。フィンに忠告した。「竜の領域」に入ってはいけないと。入った者は二度と生きては帰れないからと。


 それでもフィンは自分は何としても竜の力を手に入れなければいけないと。自分の国が侵略されそうなのに、手をこまねいている訳にはいかないと、少しでも祖国を救う手立てがあるのなら、それに賭けてみたいと。


 リリアナは彼の熱意にほだされ、「竜の領域」案内役を買ってでた。霧に包まれた「竜の領域」は何度も苦難に遭遇したが、フィン王子とリリアナは力を合わせて、それらを撃退していった。そして「竜の領域」の最深部で、巨大な金の竜に相見えることになった。

 しかし、それは幻影で竜はどこにもいなかった。

 不思議に思ったフィン王子だったが、突如リリアナは告げた。

 「竜は私なの」と。告げた瞬間、リリアナの身体は眩い光を放ち、強大な金の竜の姿に変わった。リリアナは竜である自分自身で今まで「竜の領域」への侵入者達を始末してきたのだ。

 しかし、そんな彼女にも変化が訪れていた。フィン王子と一緒に過ごした短い時間ではあったものの、フィンの国を思う気持ちに絆されてしまったのだ。

 そしてリリアナとフィンは種族は違えど、自分達が愛し合っていることに気が付いた。

 

 フィンとリリアナは離れ離れになることをよしとせず、リリアナを国に連れて帰り、リリアナは自らの竜の力で隣国を撃退してくれたのだ。そのため隣国はロイスナー王国の領地となった。そうして広大な領地となったために、国の名前を「リンデルベルク帝国」と改め、フィンは人間の姿をしたリリアナと結婚し、竜の血が連なる王族が代々国を治めていったのだ。


 それが、リンデルベルク帝国の成り立ちとして、子供でも知っている語り継がれていた昔話だった。


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