第三十七話
「と、すると何か?結局会っていないのか?」
「そうなのよ。」
「・・・リア、あの意気込みは何だったんだよ。」
「私も拍子抜けしちゃったわ。」
「なんだそれ!」
そういうとギードは大笑いした。
ここはギルドゼルタの応接室で、ギードとレイリアが対面していた。ヴァンとアレクは、帰ってきた早々にギルドの仕事をすぐに請け負い、これまた早々に出て行ったので、不在だった。
「会わずにすむならもういいかなって。私の親は捕まっちゃったし」
「そういや、道中に山賊モドキのやつらに襲われたって言ってただろ?あれもリアの両親の仕業だったらしいからな。」
「えーー!アレもそうだったの?」
「あぁ。罪を軽くしてやるって行ったら、簡単に口割ったらしいからな。なんでリアの両親の罪が重くなっちまったって訳だ。」
「そりゃそうよねぇ・・・うーん我が親ながら、どうしようもなさすぎて、どっから突っ込んだらいいのかわからないわ・・・」
ギードからの新たな情報にレイリアは継母はともかく、実の父の所業に呆れすぎて、これ以上言葉がでなかった。そんなレイリアの様子に
「・・・実の親が捕まっちまったのに、割と平気そうだな。」
「?当たり前でしょ。親らしいことしてもらってないし、殺されそうになってそんなこと思うほど、私はお人好しじゃないわ。」
実際にレイリアは本当に悲しいという気持ちはなかった。なぜなら・・・
「だって私の家族はじっちゃんだしね。」
そういうとレイリアはニカっと笑った。心の底からそう思っていたのだ。
「・・・そうだな。で、アレクは、どうするんだ?」
「アレクは・・・そうね。私は家族になってもいいと思ってはいるんだけど、アレクはまだ壁を作ってるのはなんとなくわかるのよね。」
「壁?」
「うん。なんかまだ一線引いてるっていうか・・・でも仕方ないと思うのよ。だってまだ一年も経っていないじゃない?だからすぐには無理なんだろうなーって。」
「そうか。リアはそれでいいのか?」
「よくはないけど・・・まぁこういうのは積み重ねだと思って気長に待つことにしてる。」
「ほぉー言うねぇ。」
ギードはレイリアがしっかりと考えていたことに、茶化しつつも感心していた。
その頃・・・
「アレク、いまだ!」
「じじい!わかってるよ!!」
ヴァンの掛け声とともに、魔獣の後ろ側にいたアレクはそのまま向かって飛び上がり、そのまま剣を振り下ろした。
「よし、C級魔獣も楽に倒せるようになったな。」
二人の足元には、ゆうに三メートルはある大型魔獣の死体があった。見た目は一見大型のトナカイのようだが、口元には髭の代わりに何本も牙が生えていることと、大きな角には魔力がこもっているので、魔獣でありながら電撃系の魔法を使う厄介な魔獣なのだ。それをヴァンと連携しアレクが止めを刺した。ギルドに着いた時に緊急の依頼だからと請け負った魔獣退治だった。実際ここいらに住んでいる村の住人には大打撃で、せっかく育てていた作物を魔獣に食い荒らされ、それだけなら重要度はさほど高くはなかったが、魔獣は作物だけでなく、村人を襲うようになったため、一気に重要度が上がってしまった案件だったのだ。
「・・・まだまだリアねぇさんに比べたらまだまだだよ。」
「俺は世辞は面倒だからぜってけ言わねぇが・・・・」
ヴァンはそう前置きをし、アレクの目をしっかりと見て真剣に話しだした。
「お前さんは素質ありすぎて感心するよ。このまま努力していけば、『剣豪』でも『剣聖』でもアレク、お前なら若いうちに称号をもらい受けるのは夢ではないだろうよ。」
「・・・・・・」
ヴァンの言葉に、アレクは驚いてヴァンを凝視していた。
「なんだ?」
「いや、そのじじいが俺のことそんなに褒めてもらえるとは思ってなかったから・・・」
「そうか?」
「・・・・リアねぇさんに追いつけるかな?」
「だな。だが、アレも負けず嫌いだからな。簡単には追いつかせてくれねぇと思うぞ?」
「確かに!」
アレクはレイリアのことを思うと笑みがこぼれた。しかし次の瞬間にはすぐに真剣な顔になり、ヴァンに話しかけた。
「じじい・・・」
「なんだ?」
「じじいはどこまで知ってるんだよ?」
「・・・なにをだ?」
ヴァンはアレクの言う『知ってる』という意味をわかってはいたが、敢えて聞いてみた。
「俺が、どこから来たのか、だよ。」
「『・・・・・』だろ?」
「?!!」
ヴァンはボソッとあることを言った。それを聞いたアレクは驚愕していた。
「じじいは、やっぱり、知って・・・・」
「そこから先は自分の口で言うんだな。アレク、自分で言うって決めてたんだろ?」
「・・・・・」
「だったら、腹くくりな。」
「・・・・・」
「まぁひとつアシストするなら、リアはお前さんが思っているほど、ヤワな女じゃねぇってことだ。」
「!」
「俺からはそれだけだ。さ、これ縛って帰るぞ」
「じじい・・・」
「突っ立ってねぇで、アレクも手伝え。」
「う、うん・・・」
ヴァンとアレクは先ほど仕留めた魔獣を持ち帰るべく、縛っていた。アレクの手は、作業をしつつも心ここにあらずだった。




